第6話 ジェイドの過去


 ジェイドがまだ幼かったころ、彼は妹と父と母、4人で暮らしていた。

 そこそこ裕福な家庭で、幸せに生まれ育った彼は、家族のことが大好きだった。

 貴族ほどではないが、4人にしては広すぎるほどの家と庭を持ち、のびのびと健やかに育った。

 そんなある日のことだ。

 めずらしく、父を訪ねて客人が来ていた。

 客はどうやら父が仕事の関係で知り合ったという貴族の男性であり、ジェイドは邪魔にならないように妹と遊んでろと言われていた。

 ジェイドは妹のシュアンと共に、庭で魔術の練習をして遊ぶことにした。

 彼らはいわゆる魔術の天才で、幼いころから遊び感覚で魔術をぶっぱなしたりしていた。

 お互いに透明化や追跡魔法なんかをつかって、かくれんぼや鬼ごっこに興じる。

 しばらくそうして時間をつぶしていた二人だったが、帰り際に、挨拶をしろと呼ばれた。

 ジェイドは貴族に会うのはそれが初めてだった。

 恐る恐る、頭を下げるも、貴族の男はジェイドには目もくれない。

 貴族は妹のシュアンのほうを舐めるような目つきで見ると、


「ふむ、これは素晴らしいお嬢さんだ」


 といって頭を撫でた。

 ジェイドには、それがとても不快に感じられた。父は自慢げだったことを覚えている。

 妹のシュアンは、幼いながらにも一目みてわかるほどに、誰が見ても絶世の美人だった。

 母や父はそれほど見た目がいいわけではなかった。だがシュアンだけは別格だった。特別だった。

 魔術の才能も、ジェイドをはるかにしのぐほどで、遊ぶときはいつも手加減をしていたほどだ。

 ジェイドは、自分が兄であるにもかかわらず、手加減をされているのが気に食わなかった。

 その日も、妹ばかりが注目を浴びて、またか、と思った。たしかに、妹は可愛いから、仕方がない。

 自分でも不愛想な子供だったと、ジェイドは記憶している。

 だがしかし、ジェイドは妹のシュアンが大好きだった。嫉妬心を抑えて有り余るほどに、妹を愛していたし、父と同じく、自慢に思っていた。




■■■■■■■




「それで……どうなったの……?」


 マリアは心配そうに、けどはやく続きがききたいというのを抑えきれない感じで、言った。

 ジェイドが自分の過去を、このように誰かに話すのは初めてのことだった。だから、どうしてもうまく話せずに、言葉に詰まる。

 あのころのことを思い出すと、どうしても苦しくなるのだった。


「ごめん、いまだに……立ち直れていないんだ。この後の話は……ちょっと長くなる」

「大丈夫、きくわ。そのあとで、私も全部話すから……」

「ああ、わかった。続けるよ」


 ジェイドは言葉を選びながら、自分の過去について話をつづけた。

 長い長い夜の始まりだった。


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