Daydream.瓦礫の楽園


 乾いた風と熱気と残照を残し、赤く膨れあがった太陽が西の地平へ消えてゆく。


「思い出した。確かここ以前は『Daydream Paradise』って名称だったよ。エメに登録されて翻訳ほんやくされる過程で、変わったのかもねー」

「にゃら『瓦礫の楽園』で上書きしておくにゃ!」


 なにそのセンス、と口出そうとして、やめる。

 名前は、魔法だ。『白昼夢Daydream』と名づけられたゆえにあの場所は、夢に生きる者以外を迎え入れないのだろう。


 クリスティーヌとケルベロスはもうしばらく一緒に、時を過ごせるかもしれない。

 あの場所に掛けられたは、苛烈な太陽や乾いた風すらさえぎって、残された瓦礫の風化を遅らせてきたのだから。


「……さ、僕らも帰ろうか」


 飽きもせずクマの奏でるオルゴールに聞き入るフィーと、夜間用の蓄電池バッテリーに切り替わって大人しくなったエメロディオをいつものように背に乗せて。

 いつもより感傷的センチメンタルな天狼は、きらめき始めた星をしるべに、目的地のない帰途へとつくのだった。







 

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瓦礫の楽園 羽鳥(眞城白歌) @Hatori

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