プレイバック・13の物理トリック

第69話

【分裂マトリョーシカ】


 鏑木かぶらき「いやー、酷かったな」

 小林こばやし「ああ、無銭飲食する為にあそこまでやるなら他のことに頭を使えばいいのにな。全く酷い話だ」

 鏑木「……いや、酷いのは主にお前だよ小林。相手のトリックを封じる為とはいえ、普通あそこまでやるか? 最後は恵比寿えびすさんが少し気の毒になってきた」

 小林「そうか? 警察に突き出さなかっただけ優しいと思うがな」

 鏑木「……突然店内に達磨が増えていく絵は夢に出そうだ」


【湯を沸かして水にする】


 鏑木「正に物理トリックって感じの驚きのトリック」

 小林「証拠を残さない点もポイント高いな」

 鏑木「それにしてもお前が幽霊を怖がるってのは意外だったな」

 小林「……べ、別に怖いのではない。少し苦手なだけだ」

 鏑木「お前にも可愛いところがあって、俺は安心したよ」

 小林「……か、可愛いとか言うな。キモイキモイキモイキモイ!!」

 鏑木「…………」


【凄惨(仮)】


 小林「毒殺と言えばやはり青酸カリだな」

 鏑木「一つ疑問なんだが」

 小林「何だ?」

 鏑木「犯人はどうやって青酸カリなんて物を手に入れたんだ? 昔と違って今は厳重に管理されている筈だろうに」

 小林「確かに。ある意味それが最大のミステリーだ」


【 西瓜割り】


 鏑木「これは大胆なトリックだった」

 小林「普通は西瓜割りと殺人事件は結び付かない」

 鏑木「二人きりで西瓜割りをする際はご用心を」


【死体パズル】


 鏑木「この事件の真相って、結局お前の推理が当たっていたってことでいいのか?」

 小林「何度も言うが、あの推理は依頼人が望む真相を無理やり辻褄が合うように繋ぎ合わせた屁理屈に過ぎない。依頼人の情報が本当に正しいのかわからないのだから、その質問には答えられない」

 鏑木「それって無責任なんじゃないか?」

 小林「何とでも言え。安楽椅子探偵とはそういうものだ」


【VSサイコメトラー】


 鏑木「タバスコインク、時間が経つと消えるインク、ブラックライトを当てると文字が浮かび上がるインクの他にはどんなものを用意していたんだ?」

 小林「青酸カリのインク、フグ毒のインク、トリカブトのインク、他には蠱毒こどくで作り上げたインク……」

 鏑木「……殺す気かよ」


【枯れ尾花】


 鏑木「ある意味一番の衝撃作。そういやこれも幽霊絡みの依頼だったな」

 小林「幽霊絡みの依頼は二度と持ち込まないでくれ」


【本の虫】


 鏑木「この推理は何と言うか、色々としんどくないか?」

 小林「何だ鏑木、私の推理にケチをつけようってのか?」

 鏑木「いや、そういうわけじゃないが、そこまでしてミステリ作家というのは『読者が犯人』に憧れるものなのかと思ってな」

 小林「それはそうだろう。科学者が不可能だと頭では理解しつつも永久機関を夢見るように、ミステリ作家は無謀だとわかっていながらこのテーマに挑むのだ。勇者だと称えられる者は、同時に愚者だと蔑まれる存在でもある。そうした愚かな勇気ある者こそが新しい地平を開拓するのだ。失敗を恐れていては新しいことはできない」

 鏑木「……あのさ。お前、誰にいいわけしてるわけ?」


【消えたマカロン】


 小林「この回で話した誰だか分からない相手に話しかけられたときの対処法なんだが」

 鏑木「ああ、自分に双子の兄弟がいるって嘘で切り抜けるやつな」

 小林「あれ、実は私の知り合いの双子の実体験なんだ」

 鏑木「……どういうことだ?」

 小林「双子のAが本当に知らない相手から声をかけられた。相手はAの双子の弟・Bの知人だったのだが、Bは自分に双子の兄弟がいることを相手に話していなかった。だからAがどんなに相手に自分は双子だと説明しても、冗談ととられて最後まで信じて貰えなかったそうだ」

 鏑木「……それは災難だったな」


【蝙蝠】


 鏑木「ちょっと水を使ったトリック、多くないか?」

 小林「仕方ないだろう。水には面白い性質が多く、物理トリックを作るのにかなり便利だからな」

 鏑木「氷の兇器きょうきとかってのは流石に陳腐ちんぷ過ぎて、誰もやらなくなったけど」


【見えない証拠】


 鏑木「探偵が都合よく殺人事件の起きた別荘を訪ねるってどうなんだ? 幾ら何でも話が出来過ぎているように思うのだが?」

 小林「お前がそう感じるのは自由だが、そういう偶然もあるだろう。それよりもトイレを借りたことも『一宿一飯』の恩って表現でいいのか? トイレだったら『一宿一便』にならないか?」

 鏑木「……宿便だったのか」


【ダイイングメッセージ】


 鏑木「ダイイングメッセージそのものが物理トリックという事件だな」

 小林「考えてみれば、ダイイングメッセージを残すメリットって被害者よりも犯人の方があるよな。被害者は何をしようともうこの世からいなくなるんだし」

 鏑木「……身も蓋もない」


【蝋燭小屋の密室 小林声最初の事件】


 鏑木「……悲しい事件だったな」

 小林「犯人が罠にかかってくれて助かった」

 鏑木「そういや小林、お前何で俺が日浦ひうら香子きょうこから依頼を受けていることを知ってたんだ?」

 小林「そんなの簡単だ。事務所のソファの隙間に盗聴器を仕掛けていた」

 鏑木「……げッ、それってまだあるのか?」

 小林「ああ」

 鏑木「……まさか最近も盗聴したりなんかしてないよな?」

 小林「授業中たまに聞いているぞ。お前が女子大生の依頼人相手に歯の浮くようなセリフを吐いていたのも、つまらない意地の張り合いで桶狭間おけはざま警部と喧嘩になったことも、全部知っている」

 鏑木「うわああああああああああああああああああああ!!」


【終劇】



 ……最後までお読み戴きまして本当にありがとうございましたm(__)m

 本作は第8回カクヨムweb小説コンテストにエントリーしております。少しでも面白いと思って戴けたら♡☆評価、コメントなどして貰えると作者が泣いて喜びます。よかったら応援よろしくお願いします!!

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少女探偵・小林声と13の物理トリック 暗闇坂九死郎 @kurayamizaka

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