本日のおすすめ:マンデリン①




 客の居るフロアから扉を抜けて厨房に入るなり、ユーマは急ぎ足でトーマの元へと駆け寄った。


「に、兄ちゃんっ! 大変だよ、祓魔師エクソシストが来た!!」



「とりあえず落ち着くんだ、ユーマ。何があったのか順を追って説明してくれ」


 焦りをにじませるユーマとは対照的に、至って冷静なようすのトーマはグラスに水を注いで差し出した。

 ユーマはそれを受け取ってゴクゴクと一息に飲み干す。ふうっと一息吐き、幾分か落ち着きを取り戻したユーマは祓魔師エクソシストであるアレクセイについて話し始めた。







✳︎✳︎✳︎







「聞いたところ、アレクセイという祓魔師エクソシストに敵意があるとは考えにくいな。それに、どんな人間でも⋯⋯たとえ宿敵だとしてもこのカフェを訪れたからには立派なお客様だ。きちんとオモテナシしてやらないとな」



「さすが、兄ちゃんはどんな時でも冷静だなあ」


 トーマの言葉に、ユーマは感心したようすでうんうんと頷く。



「そんなことはない。だが、万が一にも奴に俺たちの気配を悟られては面倒だからな。今日の狩りは中止しよう」



「⋯⋯はあい。仕方ないね」


 そう言って、心底残念そうに肩を落とすユーマ。店内には目星をつけた女性客がいたのだが、今回ばかりは諦めるほかなさそうだ。



「とりあえず、ユーマはお客様にドリンクをお出ししてくれ」



「はーい!」


 どうにかこうにか気持ちを切り替えたユーマはいつものように元気よく返事をし、ドリンクの用意をするため簡易キッチンへと向かうのだった。








✳︎✳︎✳︎







 よいコーヒーとは悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、そして恋のように甘い————。

 これは誰の言葉だっただろうか。恋を経験することの出来ないユーマには、コーヒーはそれを感じられる一つの手段であった。



 本日のおすすめ、マンデリンは“ブルーマウンテン”が登場するまでは世界一のコーヒーとされていたものだ。ちなみに、マンデリンという名前は原産国のとある部族から取ったらしい。

 マンデリンは強い苦味とコクに控えめな酸味、そしてシナモンのような個性的な香りが特徴の人気のコーヒーである。また、マンデリンの生豆はスマトラ式という特殊な精製方法を採用しており、他の豆よりもより深い緑色をしているのもまたひとつの特徴だ。



「うちは圧倒的に紅茶を注文するお客様が多いからなぁ。コーヒーの注文は久しぶりだ。えーっと⋯⋯マンデリン⋯⋯マンデリンは、っと」


 ユーマは戸棚ゴソゴソと漁り、そこから光沢のある黒い袋を取り出した。その中にはマンデリンのコーヒー豆が入っており、最高等級とされるGグレード1のものである。


「兄ちゃんの言う通り、いくら憎き祓魔師エクソシストでも今はこのカフェのお客様だもんね。いい加減なものは出せないよ」



 袋を開けると、ふわりと香る苦味と微かな甘み。

 すうっと深く息を吸い、肺いっぱいに上質なコーヒー豆の香りを取り込んだユーマは、ひしめき合う楕円だえん形の豆たちの中からはかりを使って1人分の豆を計量する。  



「今回は深煎ふかいり——その中でも芳ばしい香りをより引き出すフルシティローストのものを使おう」










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ゼロカフェ!〜×××な夢乃兄弟はオモテナシしたい〜 みやこ。@コンテスト3作通過🙇‍♀️ @miya_koo

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