5/月の灯台
何もせず、ぼうっと空を見上げる。
燃室から漏れる光はない。だが、頭上で丸い月がぼうっと姿を現した。
「はは……嘘じゃなかったんだ」
カサリは乾いた笑みを浮かべる。何もかもが馬鹿らしく思えた。
立ち上がり、月灯台を出る。
幻灯台が光らないのに月が現れたのだ。きっと王城から誰か派遣されて、自分は捕まって、ろくな目に遭わないだろう。なら、せめて少しくらい灯台の外の空気を吸いたいと思った。
青白い月に照らされた森を歩く。
何もかもが馬鹿らしくて、拍子抜けで――自由だった。
ぼうっと歩いているうちに、気がつけば国境を示す碑が見えていた。
そこには、円筒形の帽子を被った少女の姿がある。
胸が、高鳴った。
「……私が来るって、わかっていたの?」
「怪盗の勘ってやつかな」
丸いものが宙を舞う。
スィヌから投げ渡された林檎を、カサリは受け取った。
「太陽ってやつを盗みに行こうと思うんだ」
「それって盗めるの?」
「わからない! だから助手が要る。月明かりや天気の詳しい人がね」
ふぅん、とカサリは返し林檎に歯を立てる。
林檎の赤さが自分の頬の熱を誤魔化してくれるといいな、なんて思いながら。
「行こう、スィヌ」
「うん……うん? あれ、もしかして初めて名前呼んでくれたかな? ねぇ、そうだよね?」
「……そうかしら」
「そうだよ、絶対にそう!」
肩を並べて森の中を歩いていく。
二人の姿をただ月だけが眺めていた。
月の灯台 からすば晴 @karasuba_sei
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