4/事実と真実

「もう、ここには来ないよ」

 スィヌがそんなことを言ったのは、灯台に通うようになって10日目のことである。

「……月、盗むの諦めた?」

「間違いに気づいた、という方が正しいね。カサリを連れ去っても月は盗めない」

 肩を竦めたスィヌに、カサリは困惑する。妙な胸騒ぎがしていた。

「『月の光源は幻灯台である』というのは嘘っぱちだったの。建国者が、国に権威をつけるためにでっちあげたんだね」

「で、でもお父さんや、お爺ちゃんの代から私たちは灯台守で……」

「律儀に時間を破らず火を点けたり消したりしてきた。でもね、それと月の明滅に関係はないんだ。月は太陽とかいう他の星の光を受けているんだってさ」

「う、嘘よ! なにか証拠はあるの!?」

 カサリの心臓が早鐘を打つ。

 地面がふわふわとして現実感がない。焦燥感で喉が焼け付くようだった。

「国王に処刑された学者の論文が残っていてね。物的証拠はないけど……明日、火を点けるのをやめてみればいいんじゃない?」

 あっさりと言い放つスィヌの態度が、またしゃくに障る。

 あんなに自分のことを連れだそうとしていたのに、いきなり興味を失うなんて。

驚くくらい冷たい声が喉から漏れた。

「……帰って。もう用はないでしょう? 二度と来ないで」

 スィヌは驚いた表情を浮かべ、しばらく何か言いたそうにしていたが、やがて肩をすくめてきびすを返す。

 それが、月灯台で2人が会った最後の日となった。

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