3/怪盗の話

 宣言通りスィヌは毎日やってきた。

 決まって「私に盗まれてよ」と切り出しては、断られると冒険譚を話してから帰っていく。砂漠で竜から宝石を盗んだ話、深海の宮殿に幽閉された踊り子を解放した話、お城に飾られた悪王の彫像を豚にすり替えた話……。

 どれも荒唐無稽で、はじめカサリは「嘘くさい」「作り話でしょう」と相手にしなかったが、いくつか証拠品を見せられてはぐうの音も出ない。

 それでもカサリはしつこくスィヌの話に食らいついた。彼女の話に耳を傾け、穴があれば突く。スィヌいわく「君は実に話しがいのある相手だねぇ」とのことだった。

 ある日のこと、カサリはスィヌに訪ねた。

「怪盗って暇なのね。朝やってきて、話をして、帰っていくだけじゃない」

「おやや、私のことが気になってきた?」

「別にそういうわけじゃないけど……」

「あははっ、まぁいいさ。私だって遊んでいるわけじゃない。外でいろいろ調べているのさ。ここは古い国だから、いろんな資料が残っている。それを集めているんだよ」

 ふぅん、とカサリは返した。自分がいないところでスィヌが誰かと会っていたり、一緒に暮らしていたりするのかと思っていたのだが、そうでないと分かって漏れた声であった。 いつの間にか、もやもやは胸から消えていた。

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