ショートショート・ライ・リー

軽盲 試奏

ライ・リー

 人間は、罪深い生き物である。騙すのが駄目だとわかっていても、やめられないこともある。嘘を嘘で重ねて、取り返しのつかないことになることもある。それでも、いつかは白状したい、と思っている人もいるのだ。

 「罪ッター」とは罪を積み上げられる呟きアプリである。書き込めるのは勿論現実社会で犯罪とならないような「心の罪」で、利用者は匿名利用が義務付けられている。利用者同士の交流は呟きに対する返信などで行うことができるが、直接メッセージを送ったり、現実社会で会おう等と書き込んだら最後、運営に検知されアカウントを凍結される。徹底的な匿名保護が図られているのだ。

 だからといって、完全に匿名になりきれるわけではない。個人が特定されないような場所の投稿は問題ないのだ。僕は長い間このアプリを愛用していた。そして匿名で繋がった多くの人々の呟き、罪の積み上げを観察し、共感できる話ができるであろう・洞察力に優れているであろう人間を厳選して、苦節二年、遂にこの日が来た、と感じていた。そう、禁じられたオフ会である。僕の相互フォロワーはライさんとリーさん。たった二人、どんな人かは分からないが、運営に検知されないように、ある程度何処に住んでいるか、彼らも投稿してくれていた。

 そして僕は「ある場所に2日14時!」と呟いた。速攻でアカウントは削除されてしまったが、通知をオンにしてくれているというのを聞いていたのと、呟く時間を決めていたから確認はできただろう。

 そしてオフ会当日、僕の目の前に現れたのはそっくりな女の子二人だった。

「アーダさん、こんにちは」

「えっと、お二人は女性だったんですね」

「そうだよ、それで全然この近くに住んでいるわけでもないの。わざわざ来てもらってごめんね」

 話していくうちにわかった、彼女たちは女性ということを隠し、双子ということを隠し、出身も嘘、というか言っていることが殆ど嘘で、ネット上で偽りの自分を演じて、罪ッターというアプリを逆手にとって嘘という罪を犯していたのだ。結局、僕は僕の想像と全然違う二人と会うことになったということだ。ただ、彼女たちは僕と話している間終始楽しそうで、散りばめた嘘と彼女たちのリアルの差や、どのような感情を抱いて罪ッターを利用していたかを教えてくれた。彼女たちの罪は、「嘘の罪を呟いた」ことであり、その話をすることによってようやく彼女達は解放されたのである。結局僕らは、同じような相手を探していたんだな。

「「今日はありがとう、さよなら、お兄さん」」

 すっきりとした顔立ちで、彼女たちは去っていく。そしてその言葉と共に、僕はまだ罪から解放されないのだな、と帰路につく。

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