第12話 従兄弟の急死と渦から抜けた感そして再び
令和3年7月下旬にさしかかろうとしていた。
「女ぁ……息子が……死んじゃったよ……」
いきなり叔母から連絡が入った。5歳下の従兄弟だった。急死だった。
葬儀を終えて少しした頃、女はいきなり渦の中にいた自分がすぽーんと真上に飛び出た感覚を覚えた。
え?あれ、私?今まであの渦潮の様な渦の中にいたの?あれ、なんかもうどうでもよくなっちゃった。
人生一度きりというけど、もうなんかぐちゃぐちゃ。考えたくもない。
もうみんな関係ない!
なんでもいい!
そういった気持ちになった女は、マンデラエフェクトなど自分とは無関係な様な、どうでもいいものになっていた。
「あれ、別人ですか?」「シフトしました?」「世界線移動かな」「跳びました?違うキャラみたいですよ。ダーク部分が薄らいだ?」
とマンデラーのフォロワー達から言われて、女はすぽーんと抜けたとそのまま言葉を返した。.
もしかしたら、マンデラエフェクトから抜けた?抜け出せた?私とは無関係になれる?
そう期待に胸を膨らませた女であった。
が、そうは問屋が卸すはずもなく、それは、それまでの女とは比べ物にならないレベルの世界線移動が始まる知らせであったのだった。
令和3年の9月になった。明るい自分を取り戻したはずの女は、偶然「履歴書を書いた女」を知っていて、尚且つ「再就職先は近隣の医療機関である」ことを知っているマンデラーのフォロワーD 氏に会った。
後2週間でマンデラエフェクト1周年記念だ、と盛り上がろうかという時期であった。
D氏は女が再就職を果たしたが、郵便番号の下4桁が今までと微妙に異なる為に戸惑い間違いをしないようにとこぼしていたという。
D氏は配達員はプロだから、住所が間違っていなければ、ちゃんと配達してくれるから大丈夫だ、とやり取りしたと話した。
その相手は女であるが、この女ではない。何とも偶然とはいえフォロワーの中に世界線違いの「履歴書を書いた女」を知っている者が数名存在し、更にこのD氏が再就職したことを知っているという……。
「良かったね。再就職が出来たことが分かって」「うん、ホッとした!」
やり取りを見ているフォロワーたちが声をかける。
違う世界線の女が再就職を果たしたというその先は、思い当たる医療機関はひとつしかない。
こちらの女の世界線では休診していた近隣の医療機関だ。通勤の面からも、郵便番号が微妙に異なることにも合点が行く。
女は嬉しいが複雑な心境であった。
そのD氏に、女は別のSNSでブログの様な記事を書いていると話し、それを目にしたD氏が信じられない言葉を呟いた。
「ああ、女さんとほぼあんな感じにやり取りしたんですよ。ああやって残っているんですね」
それは、女が世界線違いの通販サイトに注文したケースでは、同じ住所でも世界線違いならば条件を合わせないと注文が受けられない、といった内容の会話を女が想像で書いた文面であったのだった。まさに「あたおか」な記事だ。
「違うんです!あれは私の想像で……」
履歴書のことと言い、世界線違いの通販サイトの注文と言い、女は別の世界線の女の思念を微妙な感覚で受け取って、呟いたのだろうか?と疑問を抱くようになった。偶然が重なり過ぎた。
また再び何かがやって来そうな予感などは皆無だった。私は大丈夫。女は自分にそう言い聞かせた。
あと少しで丸1年になる。
同期のA氏と何かと盛り上がりを隠せない女は、とある実験をしてみよう、と心に決めた。
令和2年10月8日と同じ最終列車に乗ってみる。
令和3年10月8日はすぐそこまで来ていた。
再び運命の扉が開くのかそれとも閉じるのか、女には知る由もなかった。
第1部 完
世界が何処かで変わってる ~マンデラエフェクトとパラレルワールド体験記~ 第1部 永盛愛美 @manami27100594
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます