第11話 絵文字とSNSの呟き送信と二重送信
スマートフォンの絵文字について言及してみよう。
ダイアモンド、と文字を打つと、絵文字の候補にはどの様な色と柄のダイアモンドが出現されるのだろう。
それは、機種によって異なると思われる。
ただ1つだけ、とか。3種類異なる色や柄が出ますとか。
それは、通常固定されていると思われる。
色や柄がある日いきなり変更されたり、何も対策をしなくても自然に元に戻ったり、その新旧2種類が同時に現れて同時に使え、しばらく経過した後に旧タイプに戻ったり……など、通常頻繁に変わったりはしないと思われるのだが、如何なものなのであろうか。
女にとって、その事件が起きた。
それは6月下旬にA氏が他の世界線からシフトして来たと自己申告した翌日の事であった。
A氏のプロフィールページには、女から見て、ピンク色のダイアモンドが使用されていた。ピンク色の線画で、中は塗られていない。
A氏は、シフトした翌日の夜、初めてSNS内でDM(メッセージ)を女に送り、双方の相互確認を試みた。
その日の夜に、女は違和感を感じた。昼間はいつもと変わらなかった。
(あれ?なんか変だな。画面が変な感じ?どうしてかな?)
女はDMの画面を注意深く眺めた。
すると、DM画面では、やり取りする相手側のプロフィールページのアイコン等が反映されているが、その色調が変わっている事に気が付いた。
しかし、不思議な事に、女のスマホのメール通知欄には、A氏のピンク色のダイアモンドを使用したプロフィール画面の反映がなされている。
女はSNS内のA氏のプロフィールページへ跳び、確認した。
ダイアモンドが薄い青色に変わり、線画ではなくダイアモンド内部まで彩色されている。キラキラと呼んでいるマークも大分変わっていた。
(きっとAさんが変えたんだよね?メール通知欄にはまだ反映されてないだけかな?)
女は所謂機械オンチであった為、通常よりも携帯やスマートフォンの扱いに疎かった。自身のパソコンも保持しておらず、闇雲に職場の医療事務用パソコンをなんとなくで使用していた。
そのA氏とのDMで会話をしている内に、プロフィールページのダイアモンドの色が変わったとの内容に入った。
実はA氏がマンデラエフェクトを体験した日が女の2日後であった為、女は同期入社の様な親近感を感じていた。
同期入社の新入社員としてスタートラインは変わらなかったが、リアル社会と同じくネット社会に於いても、その後の生き方によって8ヶ月も経過していれば、相当な実力差が現れる。
「Aさんのダイアモンドが青色に変わりましたね?」
「え?元からダイアモンドは青色だけど?」
女は一瞬意味が分からなかった。確かに女のスマホ画面には、ピンク色のダイアモンドに見えたのである。
「私にはピンク色だったの。でも、Aさんのダイアモンドが……いきなり、あっ、私の打ったダイアモンドが青色になってる!」
「いや、それ元から青色」
「違うの、私のはピンク色だったのに!私のダイアモンド、って!私のも青になっちゃった!」
女は焦った。午前中には普通にピンク色だったダイアモンドの絵柄が、突然青色に変化したのである。
しかも、確定入力する前に、スマホ画面下部に候補として挙がるダイアモンドの色は、女が普段使用しているピンク色の絵柄が見えているのだ。
それを打って確定すると、A氏の言っている『自分のプロフィール画面には以前から青色のダイアモンド』に変わってしまう。
女は逐一報告し、しまいには候補画面にはピンク色が、確定入力後にはピンク色と青色両方のダイアモンドの絵柄が表示される様になってしまっていた。
「ねえ、ちょっと見て!ほら私のダイアモンド、って打つとピンク色と青色が両方出てる!Aさんのは元々青に見えていたんだね!ほらスクショ画面!」
女は興奮していた。目の前で実演されたマジックのトリックが解らないと騒いでいるテレビ番組のタレントの様だ。
マンデラ社に同期入社の期待の新人は、この8ヶ月の間に女には想像も出来ない程の情報収集を行っていた。
ネットは勿論の事、関係有りと判断した本などを読み漁り、自分自身の状況を把握していた。
同じ8ヶ月の間に日々を嘆き悲しみ、挙げ句愚痴を呟き嫌悪感丸出しでSNSを利用していた女とは雲泥の差が開いていた。
「女氏がAの所へ来たね。波動が強い方へ引っ張られます。波動の強い、良い方とやり取りして下さい。見違える様に世界線が変わるから」
A氏のアドバイスを受けた女であったが、元々マンデラエフェクト体験後、女は情報収集など行っていないのに等しかった。A氏の発言もアドバイスも字面を追うだけで精一杯である。
A氏の他にも様々な先輩達が女に多種多様なアドバイスを授けても、基本情報も何も得ようとしない女には豚に真珠の如く虚しかった。
女には、A氏の世界線へ移動してしまったと言う意味が分からなかった。
「明日、レセプト発行しなくちゃならないのに、職場が無かったらどうしよう!朝、出勤して、職場が有るかな!」
確かA氏が元居た世界線は、女の勤務しているクリニックが閉院する為、異なる世界線の女は書いた経験の無い履歴書を書き、就職活動に臨むと言っていた。
おかしな話である。A氏と現在やり取りしている自分が何処に存在しているのかさえ判らずに、女はA氏が「Aの所へ来た」の一言で、自らがA氏の元居た世界線へと移動してしまったのでは、と、誤解をしたのである。
「大丈夫。職場は有るよ。仕事も大丈夫。出来るから。Aなんか毎日毎日が変化しているよ。毎日大変だけど、慣れるもんだよ。毎日勉強だけどね」
女には、「毎日が変化、毎日が勉強」の文字の意味など理解出来るはずもなく、ただひたすら目の前のダイアモンドの絵柄と色が変化してしまった、と騒ぐ事しか仕様がない程余裕が無かったのである。
かくして、初めてのスマホ画面の異変は約半日で収まり、女は低い胸をなで下ろしたのであった。
これを第1次絵文字色変事件と命名する。
この色変事件は1度では収拾が付かなかった。
そうこうする内に、絵文字色変事件はマスクの絵や音符、ループ等が第2次第3次と続いて女の絵文字だけがおかしな現象として現れた。
「いにしえの懐かしのガラケーの絵文字みたいですね。また混在しているのが何とも」
そう言われて、それもそうだな、と思った女は、自分だけが見える(候補にあがった確定前の)絵文字をスクショして貼り付け、また確定後の絵文字も同様にして、タイムラインに流した。すると、「私にもその絵文字が出ますよ。ほら」と、マンデラーのフォロワーC氏がスクショを見せた。
「あ!本当だ!Cさんと同じ!」
「でもって、普通の絵文字もあります」
「えっ?え??えっ?なんで?」
女は何度も何度も説明を聞いたが、『C氏のアカウントは一つ(同じ)だが、アプリが異なる』とだけが頭に残り、理解不能であった。
このC氏は若い頃からマンデラエフェクトを体験しており、女にとってはSNSの絵文字やある種のバグに詳しいことからC氏を「お師匠」と呼んだ。
「ある種のバグ」とは、呟きを送信してタイムラインに載せる時、同じ文面の送信中のものが真下にうっすらと見えていることがあったり、呟きがタイムラインに載ったにも拘わらず、「送信出来ませんでした」と保存されてしまうのだ。うっすらと見えて送信中とずっとなっていたり、一体何処へ送信すると言うのだ、と、女はスマホに向かい幾度となく言葉を投げた。
「よくあります。あるある、ですよ。そのうちすぐに元に戻ったり、送信したものが消えたり現れたりしますよ。ふつうです」
「Cさん……いえ、お師匠、それふつうじゃないですって!あるあるなんですか?」
「そのうち慣れます」
C氏は落ち着き払って当然のように何事も受け止めて時には流して対応していた。
女には全く真似が出来なかった。
季節は盛夏になろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます