vol. 01 居酒屋にて ①

話のネタがなくなった。

無言状態になって既に30秒は経過している。

まずい、非常にマズイ状態だ。


となりの席では、大学生くらいの男女が楽しく話している。


趣味の話はした、仕事の話もした。

あとは何の話をすれば良いの?

回転の悪い頭を少しでも動かして、話題は無いかと脳内を奔走する。

この無言の時間が続けば続く程、次のチャンスから遠ざかっていく。


毎月少ない給料から婚活アプリの会員費5000円を捻出し、返ってこない"いいね"を送り続け、マッチングしたと思い意気揚々とメッセージを送っても返信はなく、そんなことを半年続けてやっと掴んだチャンスなのだ。

これを逃せば、また半年後かもしれない。


そんなことを考えていたら、

彼女の口が動いた。


「・・・・えっと」

「はい!!」

思わず前のめりで返答してしまった。

声は裏返ったし。恥ずかしい。


「今のお仕事って、勤務されて5年目でしたっけ?」

「はい!!」

もう一回声が裏返った。もう笑ってくれ。


「その、今のお仕事をされる前は何をされたんですか?」

無言だった時間、彼女も考えてくれていたのだろう。

本当に素晴らしい人だ。

そして、同時に自分の情けなさで泣きたくなった。

ごめんなさい。


「えーっとですね。・・・あ、あ、あぁ、アフリカに行っていました。」


「アフリカ!?」

彼女が喰い付いた。

今日一番の喰い付き。


「えーと、はい。大学卒業してすぐに青年海外協力隊というやつに参加しまして。それでアフリカに行ってボランティアしてました。」

「すっごい!!本当に!?」

今日一番の彼女の笑顔が目の前にあった。

自分に興味を持ってくれている!!!!!

感動。

かわいい。


「アフリカで何のボランティアをしてたんですか?」

「えーと、学校で先生をしてました。」

「先生!???先生に見えなーい。」

よく言われます。


「正直言って意外です。なんなら犯罪おかしそうな顔なのに。」

おい。

彼女とは、間違いなく今日が初対面で。

1時間前に初めて会って挨拶した人間に”犯罪おかしそうな顔”って伝えるって。

色々凄いな、おい。

まぁ、犯罪おかしそうな顔は事実なので否定はできなかった。


「色々な縁?がありまして、そんなことをしておりました。今となっては良い経験だったと思います。」

「そうなんだねー。青年海外協力隊って、あれでしょ。電車の広告によくあるやつ」

「それです。それです。」

それそれ。

かっこいいキャッチコピーと一緒に毎年春と秋募集しているやつね。


「よかったら、そのことについてお話聞いて良いですか?実は私青年海外協力隊に興味あったんですよ。大学生とかの時に!」

まじか。バリバリお話しますよ。

助かった、、、ネタができた。


「ユキトさん?でしたっけ?お名前間違ってたらすみません。まぁいいや。正直言っちゃうとユキトさんのお話あまり面白くないなーって思ってたんです。ただ、協力隊のお話は面白そうなんで、それ聞いてみたいです!!」

正直な方は嫌いでないです。むしろ好きな方です。

ただ、やっぱりつまらないと思ってたのか・・・

ストレートに言ってもらえるのは助かるけど、それでもやっぱり多少は傷つくことは傷つく。


「自分の話でよければ・・・。ただ、長くなるかもですけど時間は大丈夫ですか?」

「終電までには終わるでしょ。だからじっくり聞かせてよ。」

「・・・りょうかいです。」

終電では帰るんだ。まぁそうだよね。


エロ漫画みたいには、現実はならんさ。


「では、まずは自分が青年海外協力隊に入ることになった経緯から。」

「え、そこからっ!!!!??」

すごい嫌そうな顔をされました。


「それも良いけど、先に青年海外協力隊の参加のメリットをまず教えてよ。」

「メリット!?だったら青年海外協力隊とは?とかの話を先にした方が良くないですか?既にある程度は知っていると思いますが。」

結論から述べよってはたしかにホウレンソウでは大事ですが。

けど、これって婚活中の会話ですよね?

ですよね?


「だってメリットがなかったら協力隊なんて行かないでしょ?そのメリットから掘り下げたほうが効率的じゃん」

「たしかに・・・」

言い返せんわ。


「では、私が思うメリットから説明しますね。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る