7章184話 資格

 門番をにらみつけた後父さんと共に西に向かうこと少し。


「あれかな?」


 エルフの里にあった住居とは違い木材で建築された家が見えて来た。


 木造の平屋建てで広くもなく狭くもない、そんな様子の家だ。

 中に化紺先輩が居るならノックしたら出てくるだろうか。

 そう考えて玄関をノックする。

 しばらくして玄関が開いてかこんせんはが出て来た。


「お?よくここがわかったなぁ。てっきりまた……いや、何でもない。立ち話もなんやし入って入って!」


 流されるまま先輩の家にお邪魔することになった。良くないとは思いながら中を見渡すと数年単位で放置されていたにしては綺麗だ。

 多分、先輩が掃除したのもあるのだろうけどそれ込みでも驚くくらいには。


 先輩に促されるまま俺と父さんは木造のテーブルの前にあったこれまた木でできた椅子に座った。背もたれは無いタイプで装飾は無い。ただ、俺たちが座った椅子と違い化紺先輩の椅子は足の部分に階段のような棒が付いていた。おそらくは背が低い頃にそれに足を掛けて座るためのものだったのだろう。


「それでどうしてこんなとこに?エルフのとこで世話になるはずやったろ?」

「それが……」


 俺は黒葉病の患者から奴の魔力を感じたこと、先輩が無事か確認しに来たことを伝えた。ただ、族長さんから聞いた先輩の母親が最後の巫女であることは伝えなかった。


「まだ生き取ったんか……人のこと操った報いを受けさせたいんやけど……」

「出来れば僕達に任せてもらいたいね」

「わかってますって。そこまで出しゃばるつもりはありませんよ。ただ。曲がりにもここはうちの故郷やので気持ちの良いことでは無いなぁ」


 きっと父さんの言う「僕達」には俺も入っていないんだろうな。


「そーいえばここの場所誰に聞いたんや?里の連中はこの場所知らんはずなんやけどな……」

「?あの嫌味な門番が教えてくれたけど……」

「リージュが?」


 リージュ?それがあの門番の名前か。名前を出した瞬間先輩の機嫌が悪くなったな。


「あの嫌味な奴がよう教える気になったもんや。何か変なこと言われてたりしないか?」

「いや、私たちに関しては。でも、化紺先輩のことを悪く言われるのは気分は良く無いですね」


 口を開けば尊大な態度で不機嫌そうに先輩のことを貶してくる。そんな奴をどうやったって好きになれない。好感度はマイナスまで振り切れそうなくらいだ。


「すまんなぁ、リージュとは昔からそりが合わんくて犬猿の仲っちゅう奴なんや。昔から何かと突っかかってくる奴やったんやけどいつからか会う度に里を出ろとかここはお前の居るべき場所では無いとか言ってくるようなってな」


 あの門番と先輩は昔はそこまで仲は悪くなかったのでは無いだろうか。何処かですれ違いがあったのか、それとも心境の変化でもあったのだろうか。少なくとも里の人たちとは違って影から先輩のことを言うようなことはしないみたいだ。


「昔はまだ喧嘩友達くらいやったんやけどなぁ」

「はは、それでも…あんまり、好きに、な、れ…………」


 あれ?視界が暗くなってく……凄く身体がだるい……先輩の声が遠く聞こ、え



◇◇◇


「雪!?」


 隣に座っていた雪が急に横に倒れたのを見た秋は地面にぶつかる前に抱き止める。

 先ほどまで元気に話していた雪であったが今は顔から大粒の汗を流しながら苦しんでいた。


「まさか……!」


 急ぎ雪の服を脱がす秋。非常事態だからと気にしていられななった。


 上半身裸となった雪の胸には透き通るような白肌に似つかない黒いアザがあった。


「クソッ」

「これは……里で流行ってるって言う……」


 雪は血刀で血を吸い魔力を感じた。それは吸血による行為である。元々血の中から魔力を吸い出すのがこの能力だが雪は血液を作りそれに吸血の宝を上乗せしてきた。


 黒葉病の感染経路は接触………ではなかった。本質は魔力を媒介する呪いの類。

 雪はそれも考慮して自身に魔力を還元しないようにしていた。しかし、血刀を形作る魔力の糸を辿り茨は雪に到達してしまった。

 心臓に根を張るように伸びるそれは急速に成長こそしないものの着実に蝕んでいる。


 急ぎ秋は雪を担ぎテントまで連れて行こうとする。既に自身も感染済みであるため躊躇はなかった。いや、そうでなくともそうしただろうが。


「待ってください」


 それに待ったをかけたのは化紺。


「あまり動かさんといてください。なんとかなるかもしれない」

「ダメだ、君も感染する。それにこの病は」

「聖属性が必要なんですよね」


 化紺は手を広げ光属性とは違う神聖な気配を感じる光を放った。


「なんとか、して見せます」


 その光景に、気迫に秋は雪を地面に寝かせた。


「頼む」


 そう言って自身も膝をつく。


「そう何回も思い通りになると思わんことや!」


 化紺は自身の魔力を迸らせ雪へと流し込む。

 元々エルフとしての魔力の膨大さに加え母親譲りの適性はあったのだ。それが呪術師との融合によってより強くなった。あれほど呪いの爆心地にいたのにも関わらず復帰が早かったのはこれが原因だった。

 


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血を飲み込んだ無能力者、吸血・鬼になる〜能力三つあるんだけど!?〜 怠惰るウェイブ @4shiya

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