7章183話 黒い茨
里のエルフに聞いて黒葉病の患者が集められている場所を聞いた。
黒葉病の原因である世界樹から落ちてくる黒い葉を避けるために里の端に設営したテントに集められているらしい。
大まかな理由は原因からの避難。しかし、他にも理由はあると言う。それがーーー
「少しでも聖属性を使える奴は第二テントに!」「第五テントにも人を!光属性でも良い」「第三テントで感染者が出たらしい」「どいてどいてー!患者が通るから」
テントにきた俺たちが見たのはまさしく修羅場。誰もが忙しなく動き回って治療していた。まるで野戦病院だ。
「よし、僕たちもできることをしよう」
『はい!』
手分けしてエルフたちを手伝うことにしたができる事は多くなかった。
「何かできる事は?」
「貴女、聖属性もしくは光属性は?」
「無い、です」
「なら魔力回復薬を運んできて」
「分かりました」
教えられた場所にあった倉庫から回復薬を箱ごと持ってきた時に見たのは浄化の光で患者を包み込むエルフの姿。
「持ってきました。……あの他にできる事は」
「無い。これを見て」
視線で示した先にあったのは黒い葉の様なアザ。そして、そこから伸びる蔦の様な線、それに巻き付く様に広がっている茨。その全てが黒い。
よく見ると少しずつ広がっている様に見える。
「これが黒葉病。黒い葉に触れたら最後、全身に茨の様なアザが広がって死ぬ。聖属性で治療は出来るけど私たちくらいの力だと現状維持が精一杯。巫女様が居ないと……」
巫女。聖属性の適性が高く誰よりも強力な魔力を持つ人。
それは化紺先輩の母親以降出てきていない。
「それと患者に触っちゃダメ。コレの厄介なところはアザに触れると感染すら事。嫌な言い方するとここは隔離施設。患者だけじゃない。私たちも」
「マジですか」
これがもう一つの里の端に集められた理由。患者から別の人に移る病。もはや病気か怪しいそれは特効薬の無い難病のそれ。
これを何とか出来るかも、と期待されている身としては正直重い。能力すら戦闘には使えない今となっては本当に自分がここにいて良いのかとすら思えるほどに。
「……いや、出来る事から何でもしよう。元々何も出来なかった時からがむしゃらにやってきたんだから。あの、少し試してみたいことがあるんですけど」
「何をするか知らないけど万が一の時は止めるから」
了承は得た。
能力を発動。使えないわけじゃ無い、戦闘には使えないだけだ。
(もし、もしこの最悪の予想が当たっていたとしたら)
血刀を作る。ただし、いつも使っている血桜じゃなくて手術とかに使うメスくらいの大きさ。
「【簒奪刀】」
メスだから刀はおかしい気もするけどそこは置いておいて。
一番今あり得るかもしれなくてあり得てほしく無い可能性。それは魔法ないし呪術である可能性だ。
症状が怜の時と似ているし何より胸騒ぎが止まらない。
(あり得ない。そんな高確率で奴とまた会うなんてことーー)
メスをアザに押し当てる。少し血が出てそばにいたエルフの人が止めようとしてくるのを静止して魔力を吸い取る。頼む、頼むから違ってくれー!
「うぐっうげぇぇえ」
「大丈夫!?」
確定。最悪だ。
「だ、大丈夫、です。ちょっと外の空気吸ってきます」
心配そうに俺の体を心配してくれる人がいるなんて思わなかった。エルフにも良い人はいるらしい。
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜」
木陰に腰掛けてため息を一つ。何処かでため息は幸せが逃げるとか聞いた気がするけど現在進行形で逃げていっているからもう手遅れだ。
「ため息なんてどうした雪。幸せが逃げるよ」
「あー父さんからか」
「ん?」
「いや、何でも。そうだ、少し父さんの意見も聞かせて」
俺は血から得た情報を父さんに共有して意見を求めた。無闇矢鱈に言うべきでないと思ったから。
あらかた聞いた父さんは「はぁ〜」とため息をついた。そうなるよね、やっぱり。
「雪の話を聞く限りだと聖火祭に来た呪術師、奴と似た魔力を感じた、と。それが本当なら黒幕は奴、または奴に近しい何者かになる。問題は」
「媒介しているのが世界樹」
「そう。化紺さんの時はアクセサリー。雪の時は本人がやって来た。そう考えるとやはり世界樹に入らないことには何ともし難いわけだ」
族長さんに言って入らせてもらう?いや、魔防隊員ならともかく俺だと信じてもらえないかも。
勝手に入る?どうやったって人目につく。
「ん〜〜〜取り敢えず今日はもう遅い。明日起きてから全員に情報を共有してから考えよう」
「分かった。あ、化紺先輩どこに行ったんだろう。奴が居るなら心配だ」
「そうだね、探しに行こうか。また彼女に接触しないとも限らない」
確か里の外で別れたし里の中には入っていないはず。となると昔の化紺先輩の家か?
ただ、場所を知らないんだよなぁ。どうしよう。
「そうだ、父さんなら里の外まで感知できるんじゃない?確か世界樹の方まで見てたよね」
「んー探してるんだけど……あ、この感じ」
何か見つけた様子の父さんについて行くとそこには最初に俺たちを案内したエルフが居た。
「何か用か?」
相変わらずぶっきらぼうな様子で肩越しにこっちを見て来た。里を背にして入口を警備しているのだから当たり前ではあるけども。
「少し聞きたいことが。我々と共に来た化紺さんがどこに行ったか教えてほしくてね」
「奴ならここから西に歩けば見つかるだろう。どうした、連れ帰りでもするのか?こちらとしても望ましい限りだ。早く連れ帰ってくれないか。獣臭くて敵わん」
「コイツッ」
一々先輩のことを悪く言わないと気が済まないらしい。一二発なら良いよな?
「まぁまぁ」
「………わかった。我慢する」
あくまで父さんのおかげでここに居る立場の俺がエルフと諍いになるのは良くない。そう言い聞かせて我慢する。
顔も見たくないのでさっさと先輩のところに行ってしまおう。
……………すれ違いに睨むくらいは許されるはずだ。
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