這い寄る影
第43話 プロローグ
焼きつく火と、充満する死の臭い。
(ああ、これは俺がやったんだ)
目の前の惨状を見て、俺はただ俯瞰する。ただ、確実なのは。右手に持つ日本刀が目に見えてその力を増していっている事で。
(これを振り抜けば、楽になる?)
そう考えた時、目の前に、たくさんの人達が現れた。でも、それらは全員、俺を非難する言葉を浴びせてくる。
『殺さないで』『熱い!?』『やめてくれ!』
(……馬鹿言うな。殺さないでも何も、もう)
そう考えると、目の前の人たちはみんな糸が切れた人形みたいに立ち尽くした。
それを見て、おれはただ悲しくなって。そのうち、何もかもを壊したいと思った。この焼けつくような臭いも、切った感覚も。全てが身に染み付いて離れないんだ。
だから、壊したいと思った。
「……なんて。俺は、ただ」
じいちゃんみたいな存在になりたかった
ただ、それだけなのに
「ウヤ!____ろ!お__!起きろ!おい!」
「っ!?」
ガコンという音と、聴いたような男の声で目が覚めた。
俺は椅子に座ったまま、声の主を探す。
「よお、よく寝てたな。着いたぞ」
「……おはよう、マルティア。悪い、寝てた」
赤い髪の弓使いのあんちゃん。マルティアがこちらを向いて立っていた。俺は右手で目を擦りながら挨拶をする。
「はぁ。何言ってんだよ、お前らは大金星だ。寝るのは全然かまわねぇ。ただよ」
指をビシッと指してくる。その先には
「スゥ……」
俺の左腕にしがみついたウェスがいて……
「言っとくが俺は僻むぞ。仲がいいのはいいが、家でやんな」
呆れたように笑うマルティアの笑顔が何だか眩しい。
「おら、呆けてねえでリテルさんの所にいけ。あとで会おうぜ」
そう言って歩いていくマルティア。俺はウェスを起こしたものの、寝ぼけ眼で何だかふわふわしていた。
「ウェス、起きて。リテルの所行こう?」
「りょうかいです。いきましょうか。ふわぁ……」
そう言いながら俺の左腕を掴んで離さないウェスと共に、リテルの所に向かうのだった。
「ふわぁ……」
シェブローラ後部に格納されたメタルマイマイ2世に着くと、中から顔を出すリテルが降りてきた。タイミングはよかったらしい。
「やっぱり、リテルも寝てたの?」
「うむ、流石に少し疲し疲れての。まあ、そっちよりは疲れてはないが」
「……すぅ」
リテルは俺の左腕にしがみつき、いまだに半分寝ているようなウェスを見て。
「全く。先代が見たら喜ぶだろうに」
過去を懐かしむような、そんな遠い目をしていたのだった。
ハース・メモリア
第3章 這い寄る影
「失礼しました、トウヤ」
メタルマイマイ2世の中に入って暫く。無事に起きられたらしいウェスは、若干顔を赤くしながらも頭を下げてくる。
「いやいや、トウヤも役得じゃなあ……!」
ニンマリとした形容し難い顔再び。とりあえずリテルの事を半ば無視するようにウェスに語りかけた。
「まあ、アレゾークの保管場所をどうするかは結局決まらなかったけど、ガロフロシス城に一時保管するんでしょ?」
「はい。とりあえずの形にはなりますが。ディブロスさんがああなっている以上、剣が所有者を変える可能性がありますし。そうなると、後々面倒ですから」
そう、俺たちは先ほどまでアレゾークの保管場所についてセーマさんと通信しつつ、マルティアも交えて会議していたのだ。
まあ、会議と言っても、途中から疲れが押し寄せてきた俺たちにセーマさんが仮眠を推奨してくれた為、結局最後までは決まらなかったのだが。
「まあ、当たり前じゃが今回は結構大ごとになっとるしの。暫くは王都から動けんかもな。対策会議やら何やらでの」
はあ、とため息をつくリテルに、俺は念のため伝えておく。
「リテル、王都についたらって約束、忘れてないよね?」
「ん?勿論、忘れとらん。じゃが、先にイドスに頼んどいた件を聞きにいかにゃならん」
そう言ってメタルマイマイ2世のエンジンをかけたリテル。フロントガラスから外を見ると、シェブローラから降りる順番が来ていたらしい。
「って、イドス?呼び捨て?!」
俺が驚いていると、リテルはこともなげに言った。
「ん、言ったじゃろ?あいつはワシに借りがあると。それに、ワシからすればまだまだガキじゃしな」
何だか笑ってしまうくらい一国の王の扱いが軽いなとか思っていると、ウェスが口を開いた。
「リテルさん、頼んでいた件というのは?」
「ん?それはの、と。む?結構混んどるのぅ」
メタルマイマイ2世が走り始め、シェブローラからゆっくりと降りる。
ここは王城ガロフロシス内部のようで、騎士たちが動きまわっており、直接話したことはない人だが特殊装騎も何やら指示を飛ばしているのが見えた。
どうやらシェブローラが格納されたのは地下のようだ。俺たちは運び出される物資搬送のための車列に混ざりつつ地上を目指すながれになるらしい。
「む、しかたないのう。今のうちに話しておくか」
車列の混み具合をみて、俺たちに向き直ったリテルは告げた。
「3本目のウェスタの子供達を追うぞ。と言っても、この王都にあるしいんじゃがな」
「3本目?誰かが持ってるってこと?特装とか?」
「いんや?あいつらはもっとらん。所有者も不明じゃ」
「え、それなら何でここにあるってわかるの?」
「それは多分、先代の残した資料でしょうか?」
ウェスが何かを口に指を当てて思案する。先代の資料。つまり、ウェスの先代であり、家族のようだった人の残した資料ということは、つまり?
「え?もしかしてそれに全部の場所載ってるんじゃ?」
「はい。実は載ってはいますが。仕掛けがされてまして」
「仕掛け?」
うむ、とリテルが頷いた。
「彼奴が言っておったのは、世界に危機が訪れた時、一つずつその在処を教えてくれるでしょう。じゃ」
「えぇ……」
そんな話あるか?しかも、引越しとか何かあって所有者が変わったりしたらその資料も無駄になるんじゃ?
そう聞いたところ、その心配はないらしい。先代のかけた魔法により、そうした事案が発生すれば名前や場所が書き変わるそうだ。
中々なインチキな気がするが、今の俺たちには非常に助かる。
「へえ、なら……」
なら。そんなものがあるのなら。
王はディブロスさんの事も知っていたんじゃないのか?
それであんな風に俺たちを送ったのか?
「……」
「トウヤ?どうした?」
途中で言葉を切り、黙ってしまった俺を心配げに2人が見てくるが。
「いや、何でもない。次の所有者、早く見つかるといいね」
そんなもの、本人に聞けばいい話だ。今はとりあえず、だんだん見える距離になった星空が恋しく思える。
「お、外に出るようじゃな」
リテルはトコトコとフロントガラスの方に向かった。俺はその場で座り込み、何となく目を閉じたのだが。
「トウヤ、隣失礼しますね」
「ウェス!?」
ウェスに寄りかかられた。そのまま動く様子がない。
「ウェス、ど、どうしたの?」
「いえ、その……」
言葉を選びながら、目を閉じていくウェス。しばし待ってからウェスから出てきた言葉は。
「まだ少し、眠いだけです……」
そういうと、一定のリズムの吐息が聞こえるだけになった。俺は何だか顔が熱い。
「はっ!?」
妙な視線を感じてメタルマイマイ2世の前の方を見ると、目を見開いたリテルと目が合う。俺とウェスを見比べた上で最初に出た言葉は。
「こういう時は、あれじゃな?えと、あとはお二人でごゆっくり……」
パタンと、トイレに入って扉を閉めた。
「お見合い!?」
じいちゃん、余計な事しか教えてない説が浮上する中、メタルマイマイは走り続ける。
朝には王城へ出向いて、話を聞かなければ。
俺は隣のウェスの顔を見ながら、何となく目を閉じたのだった。
ハース・メモリア カイショーナシ @kaisyonasi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ハース・メモリアの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます