最終話 そして……
遥を埋葬した守は意識を失っている三人の元へと向かう。瑠璃、ナナコ、未羽を廃屋となったホテルの一室に寝かせると、守はこれからの事を考える。
「どうするか……」
唐突に終わってしまった戦い。スッキリしない気持ちに区切りをつけ、まずはこの三人との今後について考えた。
「もう三人とも人間に戻ってるんだよな」
力を使い果たした三人はどういう訳か人間に戻っていた。瑠璃と未羽はともかくナナコは一度死んでいる。力を失えば死んでいる者はそのまま死んでしまうと守の知識に残されていたが、実際には目の前でナナコは生きていた。
「ハハッ。こんなのあてにならないって事だな」
現状を整理する為に独り言を喋り続けていると瑠璃の身体が動き出した。どうやら目が覚めたようだ。
「ん……、ここは?」
ベッドから起き上がり周囲を観察する瑠璃。まだ現状に思考が追いついていないようだ。
「おはよう、るぅ」
守の姿を見た瑠璃は瞳に涙を浮かべ、守の胸に飛び込んだ。
「まぁくん!」
それを優しく抱きしめると、瑠璃の頭を優しく撫でる。
「よく頑張ったな」
暫く泣き続ける瑠璃を宥めていると、ナナコもその物音で起きたようだ。そして寝ぼけたまま抱き合っている二人を見て……。
「浮気?」
「え?」
ナナコの言葉に反射的に瑠璃を引き離そうとするが瑠璃が離れる事はなかった。人間に戻っている筈なのにこの力はおかしい。だが、そこを深く追求する事を守は出来なかった。
「まぁくんはあげないもん」
空気がピシッと凍る気配を感じる。その気配に微かに震える未羽。実は瑠璃が起きた直後に起きていたがタイミングを逃してしまったようだ。
「あなただけの守じゃないわ。ね?」
スルスルっと毒蛇のように守に巻き付くナナコ。最強となった筈の守もこの二人には勝てないようだ。
「ハァ……。まぁこれって俺が悪いんだもんな。二人とも、いや、三人とも聞いてくれるか?」
守の言葉に布団に潜っていた未羽が気付かれていた事に照れながら守の元へと歩いていく。その姿を見て三人は笑っていた。
空気が和んだところで一旦二人には離れてもらい、三人には並んでもらう。守は改めて三人を見る。そこは緊張と不安が入り混じった様子で守を見つめる三人がいた。
一度目を瞑り、心を落ち着けると、守は口を開いた。
「他人からすればこの言葉は屑、優柔不断と言われるかもしれない。だけど、俺さ、三人が大事なんだ。最初はるぅが一番だった。けど、こんな世界になって、ナナコさんと出会って、未羽とも仲間になった。そして家族のようにも過ごした。誰が一番大事だとか決められないんだ」
嫌われる事も覚悟しながら三人に自分の気持ちを話した守。その表情はスッキリしていた。
「そしてここからは俺の完全に勝手なお願いだ。俺はこれから、この世界を元に戻す為に旅をするつもりなんだ。そして三人は今回の戦いで人間に戻っている。だから危険な事は終わりで待っていてほしいんだ」
守のこの言葉に三人は不満そうな顔をする。
「そ、そんな顔をしないでくれ。もう三人は無理をする事はないんだ。俺の力なら全人類を元の人間に戻せる。流石に死んだ人間までは戻せないが、まだ命として残っている存在であれば元に戻る筈なんだ」
守の言葉に静まり返る三人。暫く沈黙が続いたが、意を決したナナコが口を開いた。
「……そんなの嫌」
言葉と同時に正面から抱き着くナナコ。それを振り払う事は守には出来なかった。
「まぁくん……」
前を見ると、そこには涙を浮かべた瑠璃の姿があった。隣では未羽も怒った表情をしている。
「それは無しじゃないかなぁ?」
未羽は頬を膨らませて守を睨みつけた。
「……そこは一緒に来てくれでしょ?」
抱きついていたナナコが涙で潤んでいる瞳で守を見つめる。
「けど、大変だぞ?」
その守の言葉に三人は顔を見合わせて微笑む。きょとんとする守。まだ三人の事をしっかり理解出来ていないらしい。
「何を今更な事言ってるの?」
「ほんと、ほんと!」
「まぁくんに置いていかれる方が辛いよ……」
その言葉に守の心が温かくなっていくのを感じた。
「ありがとう」
守の笑顔を見て、三人がそれぞれ顔を赤くする。その笑顔が今までで一番の笑顔だったからだ。
誤魔化すようにナナコがぎゅっと抱きしめる力を強くし、瑠璃も走って再び抱き着いた。未羽も若干迷った様子を見せたが空いている背中から抱き着く。
そしてその間にナナコは守の顔に近づくとそのまま口と口で交わる。突然の事に驚く守だったが、抵抗は殆どしていない。守はナナコを愛しているからだ。
そしてそれは起きた。
守の力がナナコに流れていく。それはまるで初めてナナコを殺した時のように……。昔と違うのはナナコが守の力を吸い上げている事だ。
十分な力を得たナナコは名残惜しそうに守から離れた。
「どうして……?」
守の問いにナナコは笑顔で返す。
「一人じゃ大変でしょ? 私だってさっきまではこの力が使えたんだから守から吸い取るなんて難しい事じゃないわよ」
その姿を見て、我先にと瑠璃も守と交わる。それはもう激しく、さっきのナナコとの行為を忘れさせようと必死である。
「まぁくん!!」
守の力を吸い取った瑠璃の背中には純白の翼が生える。それを苦笑いしながら見守る三人。そして最後に未羽と守の目が合った。
「「…………」」
仲間外れになりたくない未羽は守の唇を見ながら自分の唇をなぞる。まだ経験の無い事に心臓はバックバクである。
その様子を見ていた守は、すっと未羽の前に手を差し出す。反射的にその手を掴むと、そのまま未羽にも力を渡した。二人は私欲が混じっていた為、このような形をとっていたが、本来であれば守から渡すだけで十分だったのだ。
ポカーンとする未羽。そして一気に顔が真っ赤に染まり、頬を膨らますと、そのままぽかぽかと守の胸を叩き始めた。
「ボクの純情を踏みにじってっ!!」
わりと本気で殴っているが守には当然効かない。それどころか笑い出す始末。混沌とした状況だったが、誰もが楽しそうだ。
これから全ての人達を助ける為に旅に出るのだ。
そして全てが終わった時、三人は本当の意味で家族になれるのだった。
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これにて『終末世界になって俺はゾンビになったが、それでも幼馴染だけは絶対守ってみせる!』終幕です。ここまで読んでいただいた読者のみなさま。誠にありがとうございました!
途中、連載が止まってしまい読者の皆様には申し訳ない事をしてしまったと思っています。
正直に言えば、最後もちょっと尻すぼみになってしまいました。もっと、熱い展開を当初考えていましたが、諸事情により、このような形になってしまいました。ですが、当初からこの四人には幸せになってもらいたかったので、その願いはなんとか叶える事が出来たかな? とは思います。
最後にこの作品を読んでいただいた方、評価していただいた方、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
実は次作を少しずつですが考えていますので、その時にはまた是非読みに来ていただけたら嬉しく思います。
終末世界になって俺はゾンビになったが、それでも幼馴染だけは絶対守ってみせる! ポンポン帝国 @rontao816
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