油断にも程が有る
@HasumiChouji
油断にも程が有る
「お……おい、影武者はどうした?」
大統領が暗殺されたと云う一報が入って来た時に、まず、部下に訊いたのはその事だった。
「えっと……内務省の管轄だったかと……」
「内務大臣にも情報は行ってるのか?」
「そ……それは、もちろん……」
何で、副大統領である俺より先に奴が情報を知ってる? と口元まで出掛かったが、よくよく考えたら、警察・諜報・要人警固、全て内務省の下部組織だった。
「があああッ‼ 何てこった……」
連続5回大統領選挙に当選、2回目以降は全て得票率九〇%台後半、支持率も十数年間連続で九〇%台後半をキープしてきた我が大統領は、あっさりと暗殺された。
「犯人は何者だ? おい、国防大臣に、すぐに目撃者を保護するように伝えろ」
「国防大臣?」
「国防大臣だ。俺は、何もおかしい事は言ってないぞ」
大統領の後継者の座を俺と争っていた内務大臣が暗殺をやらせた可能性は低い。
しかし、奴は、このチャンスを逃さないだろう。
俺派の閣僚に罪を擦り付けるぐらいの真似は……待てよ。
「あと、影武者を内務省から奪い取れ。奴らにバレないようにな」
「あ……あの……大統領が頭を撃たれて(作者注:グロ描写につき自粛)になったのが全国中継されたのに……大統領の影武者が何の役に立つんですか? それに大統領の影武者を奪えば……確実に内務省は気付きますよ」
「阿呆。大統領の影武者じゃない……」
「てめえええええッ‼ 俺の許可なく、何、勝手に記者会見開いてやがるぅぅぅッ‼」
1時間後、内務大臣の方が何歩か先に駒を進めてた事を思い知らされた。
『いや、こう云う異常事態の時こそ、内外に正しい情報を伝えないと……』
電話の向こうの内務大臣の声から感じられるのは、亡き大統領に対する弔意ではなく、俺に対する嘲意。
「おい、待て、本当だろうな?」
『本当です。今から国防大臣に事情をうかがう予定です』
警察庁長官は記者会見で……大統領暗殺に使用された銃弾は、軍で制式採用されている狙撃銃のものだった、と言いやがった。
何とかしないと、俺派の閣僚の筆頭である国防大臣は引責辞任だ……。
「わかった。だが、その場には、俺も同席していいか?」
『はぁ?』
「『はぁ?』って何が『はぁ?』だ?」
『いや、この異常事態に、副大統領がわざわざ何やってるんですか?』
「お前こそ、この異常事態に国防大臣を勾留するなど、何考えてる? 後任を誰にする気だ?」
『そりゃあ……あっ……』
こんな国だ。
国防大臣は、自分にとって代れるほど有能な部下は残らず粛清していて、将官クラスの軍人は奴のイエスマンだけだ。
その中の誰を国防大臣の後任にしても、マトモに国防大臣の仕事が出来る筈が無い。
まぁ、俺や内務大臣だって、他人の事をとやかく言えたモノじゃないが。
「あ……あの……何考えてんですかッ⁉」
「おい、人が死んだ位でうろたえるな。現場から遠ざかってるとは言え、お前だって軍人だろ」
「い……いや……ですが……その……」
「大丈夫だ。代りは確保している」
俺は、内務大臣の銃殺死体を見下ろしながら、そう言った。
犯人は誰かって?
こんな場所に銃を持ち込めるのは……ボディ・チェックを免除される奴しか居ないだろ。
「と、言う訳で、今日からお前が内務大臣だ。仕事の内容が判らなくてもいい。俺の指示通りに動け。そうすりゃ、美味いモノ食って、いい女を抱ける、呑気な余生を保証してやる」
「は……はい……。大統領閣下の御意志のままに……」
「気が早えぞ。閣僚の過半数が同意するまでは、俺は副大統領……まだ、くたばっちまった大統領の代行だ」
俺は、内務省の施設から秘かに拉致してきた
長くて短いような1ヶ月だった。
私は、新大統領として、壇上で前任者の国葬の参列者達を見下ろしていた。
無能で横暴な副大統領は、見事に、私の罠にハマり自滅した。
同じ位、無能で横暴だった私の本物は……奴が殺してくれていた。
待てよ……ああ……そうだ……。今や私こそが、本物の前内務大臣にして現大統領だ。
だが……目が回るような忙しさで、弔辞の原稿が出来ていなかった。
まぁ、アドリブで何とかなるだろう……。いざと言う時に、今の私にそっくりだった誰かさんに成り切る為に、顔や体型を変えただけでなく、演技力も磨いてきたのだから。
ざまぁ見ろ。
上から言われた命令に従うしか能の無い阿呆が優秀な影武者になれるとでも思ったか。
私は、目を閉じて天を仰ぎ……涙を流す。
そして……ゆっくり口を開く……。
自然に、その言葉が口から出た。
「艱難辛苦の末に、この日を迎えた事は、私の最も喜びとする所であります……」
ん?
あれ?
何で、参列者どもが変な
油断にも程が有る @HasumiChouji
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