第13話 そして

 お互いの気持ちを伝えあった後、私はラウルに話したいことがあって東屋に誘導した。

 話したいことは嘘ついたことだ。

 ラウルと友人の話を盗み聞きしたこと、それでハンカチを渡したくなくて体調不良できていないと嘘をついたことを正直に話した。

 私が話し出したらラウルは固まってしまい、その後、手で顔を覆って長い溜め息を吐いた。怒らせてしまったかと思って謝ったら、首を横に振って苦笑いした。

 嘘をついたにも関わらず、ラウルは誤解して当たり前だとフォローして許してくれた。

 そして苦笑しながら一言、こう言った。

「僕たち、間が悪いね」と。違いない。


 私が話し終わると、今度はラウルが天覧試合後から今日に至るまでについて話し始めた。

 まず、私に告白する際にお父様に話したらしい。告白していいですか、と。えっ、となった。

 どうやら勝手に告白したらお父様がとてつもなく怒るだろうと思ったらしい。まぁお父様は娘を嫁がせるには自分に勝てる人だと豪語していたので言いたいことはわかる。

 そして予想どおりお父様に許可を得ようとして告げたら悪鬼のようになったらしい。


 しかし、予想外にもここでお兄様が援護してくれたらしい。

 曰く、ラウルは天覧試合にも優勝した実力者で家柄に性格、素行も悪くない。考えるのはどうか、と。

 それを聞いて再び、えっ、となった。あのお兄様が助け舟を出してくれたなんて。

 お兄様からの援護もあり、お父様はラウルと一試合したらしい。とは言っても武家の人間で副団長まで登り詰めたお父様に一本とることはできなかったらしいけど、お父様の俊敏で鋭い攻撃を幾度も防いだことで告白することは認めてもらったみたいだ。

 ただし、告白して交際を申し込むまで。私の意思を尊重し、婚約はまださせないと言ったらしい。お父様らしいと思った。


 今度は私が苦笑いを浮かべたけど、まずは仕事で家にいないお父様とお兄様にはあとにして、先にお母様に報告しようと動いた。

 お母様に報告したらとても喜んでくれて、お母様を交えた三人でお話しすることになった。

 そこでお母様はお互いのどこが好きなの?と尋ねたりしてある意味大変だった。

 お母様は明るくて口が達者だ。娘の私は勿論、穏やかなラウルでは太刀打ちできず、なすがままだった。

 そうこうしているうちに時間は流れていき、お父様とお兄様が帰ってきて、お父様は告白の結果を聞くと天井に向けて無言の両手で顔を覆った。

 お兄様の方はどうだったかというと、ふぅん、と短く返事しただけだった。

 お父様はまだ婚約は早い、まずは五年交際してそれでいいのなら再び決闘しに来なさい、とラウルに言ったものの、お母様に何を言ってるの、と一蹴されていた。

 まずはお付き合いしてこの後は二人のペースでいきなさい、とニコリと私たちに微笑んでお父様を従わせた。お母様すごい。


 お兄様は全然驚いていないから尋ねたら、私がラウルの好きなのは知ってた、とお父様に隠れてさらっと暴露してきた。

 ついでに母上も薄々知っていたと思うけど、と告白してきて顔が赤くなった。私の片想いは結構バレバレだったのかもしれないと思った。

 サリーたちには聞けなかった。聞いたら恥ずかしくて顔が赤くなると思ったから。

 そんな私がラウルが原因で泣いて落ち込んでいたから、優勝しておいしい料理食べさせて元気にさせようとしたらしい。お兄様なりに気にして元気付けようとしてくれたようで、胸温かくなった。

 そんなお兄様はラウルに優勝したんだから何か奢れよ、と言っていた。ラウルも勿論、と頷いて二人とも笑っていた。

 あの時は辛かったけど、今はこうして笑ってられて幸せだと思った。


 それからは何かと慌ただしかった。

 キャロルと姫様に報告すると会いたいとなって、早速集まって経緯を話した。

 すると二人とも自分のことのように喜んでくれて、おめでとう、と祝福してくれた。

 それだけではなく、ラウルのご両親にも会いに行って、お付き合いすることを話して和やかな時間を過ごした。

 侯爵夫妻はラウルに似て優しくて私をかわいがってくれた。

 そして大きなトラブルをなく、約半年の交際を経て、私とラウルは婚約した。




 ***




 鏡に映る自分を見てくるりと一回転する。


「うん、悪くないかな」

「かわいいですよ、お嬢様」

「ありがとう、サリー」


 かわいいと言ってくれるサリーに笑みがこぼれる。

 今日のコーデは深緑を基調とした落ち着いた色合いのワンピースに白いカーディガンを羽織って、髪は緩く巻いておろしている。


 今日は婚約してから初めてのデートだ。

 ここ数ヵ月、近衛騎士団が忙しい時期だったため、随分と久しぶりのデートになった。

 やっと落ち着いて会いたいなと思ったけど、忙しかったラウルに会いたいと言うのはどうだろう、と思っていたらラウルの方から久しぶりにお出かけしよう、と言ってくれてつい張り切ってしまった。

 珍しく徒歩によるデートで、行き先は他国から来た今人気の演劇が公演されている劇場だ。


「お嬢様、ラウル様が来ましたよ」

「え! はーい!」


 侍女長の言葉にバックを持って部屋を出て、急いでエントランスに向かって下りていく。

 お母様と話していたラウルは足音からこちらを見て微笑んだ。


「エルネスティーネ、久しぶり」

「う、うん、久しぶり。ごめんね。遅くなっちゃって」

「いや、僕も今来たばかりだから」


 ラウルは寒色の爽やかな服装をしていてよく似合っている。


「ティーネ、はしゃぎ回らないようにね」

「わかっています、お母様」


 今日のデートをずっと楽しみにしていたのがわかっていたのか、お母様から注意するように言われる。


「ベルベット卿、ティーネのことよろしくね」

「はい、夫人」


 お母様に頼まれたラウルはニコリと笑ってそのあとも少し会話する。また、子ども扱いされている気がする。

 ちゃんとラウルの隣に相応しいようなきれいな感じの服装にしたのに。


「エルネスティーネ、行こうか」


 お母様との会話が終わったのか、ラウルが手を差し出して微笑んでくれる。

 その光景が嬉しくて、ちょっとした不満もすぐに霧散する。


「……うん」


 ラウルの手に私も手を重ねる。

 以前ならこの手を掴むことができなかった。

 できてもそれはダンスをする時だけ。

 だけど、今は違う。

 好きな時に手を繋げれるなんて、なんて幸せなんだろうと思う。

 

「行ってきます、お母様」

「気を付けてね」

「はい!」


 お母様に元気に返事してラウルとともに歩いていく。

 手を離して会っていなかった間を互いに話していく。

 

「忙しかったのに今日はありがとう」

「ううん。僕の方こそごめんね」

「ううん、この時期は忙しいって知ってるから」


 昔からこの時期はお父様が忙しかったから理解している。だから気にしないでほしい。


「公演のあとはどこかで食事する?」

「うん」

「どこに行きたいとかリクエストある?」

「リクエスト…」


 うーん、と考えて、あ、と呟く。


「じゃあ、ラウルが前に言ってたお店に行きたい!」

「前言ってた? ……それって、南部地方の?」

「うん。食べてみたいなー、って思っていたから」

「いいけど……、本当にそれでいいの? エルネスティーネが好きな店でもいいよ?」


 本当にそれでいいのか、とラウルが尋ねてくれる。いつも思うけど、ラウルは私の意見に合わせてくれる。

 でも、ラウルのこともっと知りたいって思ってしまったから。


「ううん。ラウルが好きな料理気になるから。私もラウルのこともっと知りたいの。そこにしよう?」


 ニコリと笑って素直に伝えてみると、ラウルも優しい笑みを返してくれた。


「……じゃあそこにしよう。おいしい料理がたくさんあるんだよ」

「わぁ、楽しみ!」


 明るい声で告げる。どんなお店なんだろう。今から楽しみだ。

 わくわくしているとラウルが小さく笑ってすっと手をまた差し出した。


「ラウル?」

「この先は人通りが多いしはぐれたら大変だから」


 そう言って手を差し出してくれるラウルに笑って手を絡める。恋人繋ぎだ。


「エルネスティーネ?」

「……こんな風に繋ぎたくて。ダメ?」

「……嫌じゃないよ。劇場へ向かおうか」

「うん」


 そして恋人繋ぎで歩いていく。

 ちらりと隣を見る。

 大好きな人がいて、一緒に笑ってくれていのは幸せだなぁと感じる。

 この幸せは、ずっと続いていくと感じながら劇場へと歩いていった。


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「親友の妹」は、もう終わり 水瀬真白 @minase0817

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