chapter 1.世界の裏切り者

ようこそ Infinite STORY の 世界へ



「ち、ちょっと待って!俺、ゲームしてて」

「はい」

「それで、えっと、」

「あなたは、一度魔王に負けている。このことは覚えていらっしゃいますか?」

「あ、はい。そのあとやり直そうと思ったら、セーフデータが無くなってて……」

「それはそれは……しかし、なるほど」


訳の分からない状況に混乱している俺を置き去りに、話は淡々と進んでいく。


「やはり、この世界が今陥っている状況は、リョウ様、あなたにあるかも知れません」

「陥ってる?えっと、何の話、ですか……?」

「百聞は一見にしかず、です。まずは現状を見てください」


ダリアと名乗る女性に腕を引かれ、突如現れた扉をくぐる。


その先に広がっていたのは「はじまりの町」

勇者の生まれ育った小さな町で、ゲームのスタート地点だった。


グラフィックもかなりリアルで綺麗だったけど、実際?に見ると、やっぱり迫力が違う。

VRってこんな感じかな?

ゲームをプレイしていた時に何度も立ち寄ったからこそ、思い入れもあり、俺は少しワクワクして町を見て回ろうとした。


その時だった。


───ガンッ


頭に鈍い痛みが走った。


足元に転がる石と、滴り落ちる、赤い液体。


「え、あ……?」


痛い、痛い痛い痛い。

血、血が出てる。


「な、んで」


「何で?こちらのセリフよ」

「よくもまあ、のうのうと帰ってきたわね」


気付けば、俺は町人たちに囲まれていた。


「あの」

「黙れ、役立たず!」

「まって」

「お前のせいで」「おまえのせいで」「オマエノセイデ」「オマエノセイ」


何を言っているんだ?

こんなシナリオ、俺は知らない……!


様々な罵声が飛び交った後、町人はみんな俺を指さして言った。


「「「裏切り者」」」




ダリアさんにローブを被せられ、逃げるように町を後にした。

馬車に乗るよう促され、何も考えられないまま、指示に従う。

ただ呆然としている俺に、彼女は言った。


「始めてプレイした時と、ストーリーが変わっているでしょう?」


それを聞いて、ハッとした。


「何を知っているんですか」

「何もかも」

「それじゃあ答えになってない!」

「曖昧な質問には、曖昧な回答しかできません。では逆に問いましょう」


「何を知りたいのですか?」



馬車に揺られながら、俺は彼女に片っ端から疑問をぶつけていった。

そして得られた情報は、こうだった。


・この世界について

……この世界は、勇者が魔王に敗れて救えなかった世界のその後である。


・原因について

……この状況に陥った原因は、魔王に敗れたところでゲームデータがロストしてしまったから。


・シナリオの変化について

……ゲームデータのロスト、加えてセーブデータが存在しないため、ゲーム内の時間が進み続けて本来のシナリオにはない世界になってしまったことが要因と考えられる。


・町人の対応について

……言わずもがな、勇者である俺が「救えなかった世界」になってしまったから。



「でも、裏切り者って何だよ……」

「それは、リョウ様が世界を救えなかった、その後に起きた出来事のせいでございます」

「その後の?」

「はい。勇者リョウが敗れた後、魔王はあろう事か、人々にこれまでの悪事を謝罪し、各国の王たちと平和協定、そして不可侵条約を結んだのです」

「魔王が?!」

「我らは人類に興味があった。しかし、アプローチの仕方が分からず、勇者たちと争いが始まってしまった。怖がらせて申し訳なかった、と」

「そんなの!」

「そんなの、真っ赤な嘘にございます。平和協定も不可侵条約も全てはフェイク。魔王は人類を欺き陥れ、全てを手中にせんと企んでいるのです」

「騙されてるのか?」

「魔法や幻術での洗脳ではありません。時間をかけ着実に信じ込ませたのです。だから、今すぐどうにかなる問題ではないでしょうね」


一通り話し終え、ある程度ではあるが、自分が置かれている状況が分かってきた。


「あなたはかつて、世界を救う立場にあった。人々の希望であった」

「けれど今は、世界を救えなかったばかりか、人類に興味を示し歩み寄ろうとした魔族を虐げ、戦いの火種を撒いた元凶【世界の裏切り者】になったってことか」


「石をぶつけられ怪我をしたように、この世界は夢幻ゆめまぼろしなんかではありません。怪我をすれば痛みを伴うし、行き過ぎれば死がありますし、当たり前ですが、死んだらそこまです」

「…………」

「あなたが元の世界に戻る方法はたった一つ、【世界を救うこと】」



文字通り、世界が敵に回っても、勇者はその世界を救わなくてはいけない。


一度目では救えなかった、この世界を。


次こそは。

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