chapter 3.それぞれの決断

「平和協定を結ぶのです」


ダリアさんがなぜその結論に至ったのかは分からないけれど、作戦には、そう言っていた。

……そうだ。最終目標がなんであれ、目的は『この世界を救う』そして『元の世界に戻る』そこが揺らぐことは無い。




フード付きのローブを身につけ、旅人を装いながら勇者だとバレないように調査を始める。


大神殿にあった転移魔道具のお陰で、移動はそう苦労はしなかった。

情報収集だって、俺自身が誰に接触するでも無く、ただ酒場に座っているだけである程度は収集できる程に、世界には裏切り者の話や魔王が平和協定を結んだ話がひっきりなしに飛び交っていた。


しかし、仲間の捜索はかなり難航していた。


捜索している仲間は、武闘家、賢者、そして魔道士の3人だ。

一見すると少ないが、あまり時間をかけられない以上、この人数が限界だった。

そして、俺が最も信頼している仲間がこの3人だったのだ。



まあ、そう簡単には見つけられないだろうとは思っていた。

裏切り者、世界を陥れようとしたやつの仲間なんだから。そう簡単に接触できるわけが無い。

職業は疎か、名前や下手したら外見だって変わっている可能性だってある。


ダリアさんが目星をつけてくれていたところをしらみ潰しに探しているが、まだ誰一人として出会えていない。

探していると貼り出しもできない、大々的に聞き込みもできない。

地道にコツコツと探していく他ない。


「……次は居てくれ……」


そう願いながら、俺は次の候補地へ向かった。





───大陸北西の果て コンソラーレ


ここには賢者の森と呼ばれるところがあり、そこにきっと彼女がいる。


「……ルーチェ」


「……リョウ?」

「うん、ひさし、ぶり」

魔王討伐に失敗して以降、どのぐらいの月日が経ったのかもよく分からないが、久しぶり……であってるのだろうか。


【ルーチェ】職業:賢者(女)

・賢者の森の出身で、主に回復や補助魔法を得意とする。

・常に冷静で、俺も何度も助けられている。

・魔王討伐の暁には、大賢者の称号が与えられる予定だった。


「迷惑かけてごめん。大賢者になるチャンスだったのに」

「大賢者の称号が欲しかったのは、肩書きや立場があれば、護れる者が増えるから。だから別に必須だった訳じゃないの。リョウが気に病むことじゃないわ」

「でも裏切り者の仲間って」

「……そうね。まあ、散々だったわ」

「……ごめん」

「過ぎたことよ。それで?何か用があったからこんな辺鄙なところまで来たんでしょう」


俺は、これまでの経緯とこれから、協力をして欲しいことを伝えた。


「……結論から言うわ、私は協力できない」


───グサリと言葉が深く重く突き刺さる。


「大神殿をはじめとする各地域の神殿、更には教会まで、あれ以降封鎖されて、救いを求める人たちの行き場が無くなってしまったの」


勇者一行が頻繁に出入りしていた神殿、教会には特に重い処罰が下ったと言う。

そのせいで、救いの手を差し伸べられ無くなってしまった。

しかし、ここ最近になり監視付きの条件の下、神殿と教会は活動を再開し始めている、と言う話だった。


「だから共に行動するのは、お互いにとってリスクが大き過ぎるのよ。だから私は協力できない」

「……うん、話してくれてありがとう。俺は俺で、できる限りを尽くすよ。ルーチェの活動が上手くいくことも祈ってる」


彼女は、ありがとうと小さく言うと、静かに俺の手を握った。


「最後に、これは覚えておいて。私は、あなたの仲間になったこと、共に魔王討伐に向かったこと、これっぽっちも後悔していない。私たちの選択は正しかったし、人々だってそれを望んだ……リョウは裏切り者なんかじゃないわ」


俺は、賢者の森を後にした。


協力は仰げなかったけど、それでも彼女には彼女の道があって、人生がある。

それに、最後の言葉、彼女の本音が聞けてよかった。



残る仲間は、武闘家と魔道士なのだが、武闘家とはあまりにも意外なところで再会を果たした。



───大陸 はじまりの町南東の森 大神殿


「よお!リョウ!」

「シルト!!」

報告の為にダリアさんの待つ大神殿に戻ると、そこには探していた仲間の一人、シルトがいた。


【シルト】職業:武闘家(男)

・東の王都出身で、武器や素手での攻撃が得意。ときには身を呈して仲間を守ることも。

・面倒見がよく、兄貴肌。初めての仲間。

・魔王討伐の暁には、報奨金で世界を旅するのが夢だった。


「どうしてここに?!」

「お前を探してたんだよ、リョウ」


俺を探して?


「あの後、急に姿を見なくなったと思ったら、お前が行方不明の間に世界はこのザマだ」

「シルトにもたくさん迷惑かけたよね、ごめん」

「いや、俺も力不足だった、すまん」


話を聞けば、魔王討伐に失敗して以降、勇者リョウはパタリと姿を消し、行方不明に。

シルトは俺を心配して、それ以降秘密裏に俺を捜索してくれていたらしい。

そしてあの、はじまりの町に裏切り者が来たという噂を聞きつけ、ここに辿り着いたそうだ。


「話は、お前が来る前にそこのダリアって女に聞いた。作戦についてもな。それで、仲間集めはどうなってんだ?」

「あ、うん……ルーチェはダメだったよ」

「そっか。あいつは抱えてるもんがデケェからな」

「シルトは……俺に協力してくれるの?」


「何言ってんだ、当たり前だろ」


当たり前……そっか、シルトの中で、俺を助ける選択は「当たり前」なのか。


「うん……うん、ありがとう」



【武闘家 シルト が 仲間 に なった】

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