chapter 2.作戦会議

馬車に揺られ、どのくらいの時間が経っただろうか。

辺りは木が鬱蒼と茂り、森の奥深くにいることが窺えた。

「どこに向かってるんですか」

「大神殿でございます」

彼女はそう言うと指笛を吹き、馬車が止まる。


「さあ、着きましたよ」


そう言われ下車すると、目の前には相変わらず木ばかりしかなかった。

ここが……、いや、


「……そうだ、確か大神殿は隠されていて、文字盤の仕掛けを解かないと入れないんだ」

「その通りでございます。流石リョウ様ですね」

「あ、うん、ありがとう……」

綺麗な女性に褒められると、ちょっと照れるな……。


そして文字盤の仕掛けを解き、俺たちは神殿の奥へと入っていった。



「あの、神殿の人たちは?」

「神殿の者も、かつてのお仲間も、勇者を手引きし協力した者として、今は皆さま散り散りになっております」

「俺のせいで……!」

「しかし、今は誰もいない大神殿が好都合。仕掛けを解かなければ見つからない場所ですから隠れ家にはもってこいです。リョウ様は今やお尋ね者ですからね」

「……すみません」

「なぜ謝るのです。これは致し方のない、云わば不慮の事故のようなもの……私こそ、あなたを巻き込んでしまい申し訳ございません」

「え、あ!もしかして、もう一度世界をお救いくださいって」

「ええ、呼びかけたのは私です。自己紹介が遅れてしまいましたね。私はダリア。大神殿の神官の一人でございます」


ダリア……ダリア……。


「リョウ様は私を覚えてはいないようですね」

「あ……すみません」

「いえ、この世界は登場人物が多いですから。一人一人覚えるのは至難の業。今こうして覚えていただいたのですから、それで結構です」


ダリアさんはそう言うと、薄らと微笑んで話を続けた。


「リョウ様が置かれている状況、この世界についてはお話しましたので、続いてこれから成さねばならないことをまとめましょう」

「この世界を救う方法、ですよね」

「ええ。ですがそれは最終目標です。まずは今できることが何かを考えましょう。その積み重ねがやがて問題の解決に至りますので」

「今できること……まずは作戦会議、ですかね?」

「そうですね。今後の動きを考えつつ、お仲間と合流ができるよう考えていきましょう」

「ありがとうございます、顔に出てました?」

「それはもう。ですが仲間想いなのがリョウ様の良いところだと私は知っていますから」



そうして、まずは今後のざっくりとした流れをまとめた。


「まずは情報収集をしつつ、元の仲間と合流しましょう。場所は大体ですが目星がついています」

「そして仲間と合流でき次第、魔王に接触する」


「ええ、そして平和協定を結ぶのです」


「……平和協定って言っても、そう上手くいくかな……そもそも魔王のせいで俺は裏切り者扱いだし、魔王にとっても俺は邪魔な存在だろうし」

「一筋縄では行かないかもしれません。ですが、最終的に魔王はこちらの提案を飲むことになるでしょう」

「どうして?」

「魔王は時間をかけて、国民や王たちを信用させてきました。魔法や幻術でパパっと済ませずに、です。つまりかなり慎重に、かつ、確実に信頼を得ようとしているのでしょう」

「だから俺たちを適当にあしらえない、ってこと?」

「いえ、リョウ様と手を組むことが魔王にとっておいしいのです。考えてみてください、自分たちを陥れて命を狙ってきた裏切り者の勇者と和解を示して協力する。とても懐が広く、慈しみのある人物に見えませんか?」

「確かに!」

「魔王が何を考えているのかは分かりませんが、抑止力である勇者無き今、その気になれば世界なんて滅ぼせるはずなのです」

「それをしていないということは、向こうもな何か決めてに欠けている……だからそこに交渉の余地があるんですね」



目下の目標と今後の方針が固まった俺たちは、情報収集をしつつ、散り散りになった仲間を探すために動き出した───。

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