第5話 さよならパポピ
ワビビは街の破壊を始める。自身に危機が迫った時のための止むを得ない場合にのみ使用が許されるはずのその強力な武器は、簡単に建物を粉砕した。当然それらの建物には人々が生活や仕事をしている訳で、ビルやマンションが破壊される度に被害はどんどん増えていく。
しかし、この時代の存在でない彼はそこに何の罪悪感も覚えてはいなかった。
「早く組織が現れろ。この街が火の海になる前に」
ワビビはパポピが闇の組織にさらわれたと思い込んでいる。そして、その組織に気付いてもらおうと無慈悲に街の破壊を続けていた。多くの人々が逃げ惑い、破壊された建物では多数の人々が亡くなり続けるばかり。
やがて、この騒ぎを聞きつけた警察やら報道関係のヘリコプターが上空を飛び始める。自分の行動で周囲が大騒ぎになる事は彼の望みでもあり、この状況に興奮すら覚えていた。
「そうだ、もっともっと騒ぎ立てろ! 僕がここにいると言う事がもっと有名になれ! そして、パポピをさらった組織が現れろ!」
ワビビの持つ武器は21世紀の科学力を遥かに凌駕したもの。当然、地元の警察レベルではどうする事も出来ない。駆けつけた警察官も最初は発砲したものの、拳銃程度の武器では傷ひとつつく事はなかった。
それがハッキリ確認出来たところで、自衛隊が呼ばれる事になる。
この突然発生した騒ぎはテレビやネットで報道され、そのあまりに荒唐無稽な光景は多くの人々の目を釘付けにした。当然その中には結城家の家族も含まれている。
たまたまリビングでテレビの生中継をマサキと一緒に目にしていたパポピは、すぐに街を破壊しているロボが自分と同じ第2文明で作られていると見抜いた。
「アレはパポピの時代のものです。この時代の人には止められません」
「パポピ、知ってるの?」
「見た事はありませんが、アレを止められるのはパポピだけです。行きます!」
「ちょ、パポピ!」
席を立とうとする彼女をマサキは止める。腕を掴まれ、パポピはもう一度座り直した。その理由を問おうとする彼女と、止めたいマサキは見つめ合う。
「何故止めるのです。このままでは被害が広まるばかりです」
「だってパポピは調査用に作られたんでしょ? 武器とかあるの? あのロボットを止められるの?」
「パポピだってあらゆる事態を想定しての対応が組み込まれてあります。無茶ならパポピも行こうと判断しません。勝算はあります。だから行かせてください」
パポピの正論に圧倒されたマサキは言葉が出なかった。彼女がここまで人々を救おうと動いているのは、近所の人達との交流でこの時代の人々を気に入ってくれたからでもあるのだろう。
ハァと大きくため息をついたマサキは、改めてパポピの顔を見つめる。
「本気なんだ。じゃあ絶対に壊されないでね」
「任せてください。あのロボの目的は分かりませんが、パポピが必ず止めます!」
「分かった。僕はここで見守ってるから」
「ええ、任せてください!」
パポピはマサキにサムズアップをすると、まずは自分の部屋に戻った。そうして、買ってもらった服から本来の服に着替える。彼女の求めに応じ、服は必要な情報と装備を提供。パポピの目が何層もの光を走らせ、街を破壊しているワビビの特徴と詳細な位置を把握した。
「やっぱりアレは、パポピと同じ……」
彼女は部屋を出るとベランダに向かい、服の機能のひとつを開放する。それは空中飛行能力。まるでスーパーヒーローのように空を飛んで、パポピはワビビの元へ直行した。
破壊の限りを尽くすワビビの前には、ついにこの国の最高戦力が集結。次々に攻撃を開始する。スナイパーがライフルを撃ち、戦車が砲台を向けた。銃での攻撃に効果がないと分かると、次は手榴弾、そして戦車の砲撃と攻撃の破壊力は増していく。
しかし、それらの攻撃が彼を傷つける事は出来なかった。
「くそっ、ヤツは何者なんだ……。こんなの有り得ないぞ」
一方、ワビビはここまで派手に動いても想定していた組織からの動きがない事に疑問を覚え始める。まだ破壊活動が足りないからではないかと言う結論に達した彼は、両手に握られてる超兵器を戦車に向けた。
その敵意を敏感に察知した戦車は、すぐにそこから離脱を開始する。
「て、撤退~!」
しかし、ワビビの持つ兵器の射程は長く、戦車は呆気なく破壊されてしまった。炎上するその姿を見た他の戦車もまた一気に離脱を始める。ワビビも敵対勢力の全滅が目的ではないため、この様子を冷静に観察した。
「これでも組織が動かないとは……パポピは一体どれだけの事をやらかしたんだ」
どうやらワビビのシミュレーションの中では、パポピがとんでもない破壊行為をした事になっているようだ。
一方、ライフルも戦車も効果なしと言うこの結果に、政府は頭を悩ませる。後考えられる手段はミサイルか、それ以上の破壊力を持つ兵器か――。その頃、日本には各国からの情報提供要求が殺到していて、それらの対応にも苦慮していた。
政府が迅速に動けない中、ワビビはついに直接人を攻撃する方針に切り替える。彼は警戒する自衛隊員の1人に銃口を向けた。その威力を理解している隊員は死を覚悟して微動だにしなかった。
「ここまでか……」
そこに空からパポピが現れる。彼女はワビビの前の降り立つと、火の海になってしまっている街の光景を見渡した。
「あなた、自分が何をやったのか分かってるの?」
「パポピ、やっと会えた!」
「はぁ?」
パポピは罪悪感が全くないワビビに秒で切れる。その彼はようやく会えた救助対象に顔がほころび、両手に持っていた武器を放り出して駆け寄って来た。この状況を全く把握出来なかった彼女は、間合いに入ってきたところでワビビの胴体に向けて無造作に手を突っ込む。全く無防備だった彼は、自分の胴体が貫かれた事に理解が追いつかない。
「え? 何故?」
「やりすぎたのよ。あなたの目的は分からないけど、こうなってしまってはパポピもこの時代にはいられない。だから……」
「何を……僕に……」
パポピの一撃であっさりワビビはその機能を停止した。その様子はしっかりテレビ中継されている。現場で見守る自衛隊員達も全くリアクションが出来ないでいた。
パポピは機能を止めたワビビの体から時空跳躍装置を引きずり出し、自分のボディの中に取り込む。製造元が同じなだけあって、装置はすぐに彼女に馴染んだ。
「うん、やっぱり使える」
パピピは時空跳躍装置が正常に動く事を確認すると、倒れて動かなくなったワビビに向かって手をかざす。すると、服の機能と連動して特殊な磁場が手のひらから発生。その干渉を受けた彼の体は原子レベルまで粉砕された。
「これで良し」
パポピは、ワビビがこの時代の人に悪用されないように始末すると、改めて周囲を確認する。調査用ロボであるパポピは、あちこちで発生している火災を止める術を持たない。
自分がいなくなる事で救助活動もスムーズに進む事が出来るだろう。そう結論付けた彼女は、報道しているカメラに向かってニコリと微笑んだ。
「マサキ、ここでお別れです。今まで有難う」
最後の挨拶を済ませたパポピは、服を操作して時空跳躍装置を発動。現場に展開している自衛隊員達の目の前で、彼女は突然出現した次元の穴に吸い込まれていった。同じ光景をテレビで見ていたマサキはその行動の意味を即座に理解する。
「パポピ、帰っちゃったんだ。さよなら」
パポピがいなくなった後、危機の去った現場では少しも混乱する事なく自衛隊が即座に救助活動に移った。消火活動も始められ、突然発生した大災害クラスの破壊の爪痕も徐々に復興されていく。
この事件の原因の超科学ロボは多くの謎を残して証拠も残さずに消え去り、真相を知っているマサキは事実を誰にも話さなかった。
やがてこの事件は都市伝説のひとつになっていく。多くの仮説が語られたものの、真相に近付いたものはひとつもなかったのだとか。
パポピは元の時代に戻れたのか、それからどうなったのか――。彼女はこの時代に二度と現れなかったため、それらについては永遠に謎のままだ。
(おしまい)
空から落ちてきた物語 古代ロボット編 にゃべ♪ @nyabech2016
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