第4話 パポピ回収ロボ

 パポピが舞鷹市に落ちてきて一ヶ月。彼女はすっかり街の雰囲気にも慣れ、結城家周辺の人達との交流を深めていた。超古代の超科学で作られた少女型ロボットのこの時代の目的は、元の時代に戻る事。ただし、現時点では内臓部品の修理が出来ないため、その技術が開発されるのを待つしか手はなかった。

 彼女は長期戦を視野に入れ、助けくれてた結城家をサポートする生活を続けている。それが結果的に一番効率的だと言う結果を導き出したのだ。


 ある日、パポピが夜にスリープモードに入っている時、体内に内蔵されている発信装置が稼働する。これは調査ロボに問題が発生した時に救援を呼ぶための、言わば安全装置の一種。

 しかし、この装置自体も壊れていて、誤作動と言う形で動いてしまう。そのため、彼女は装置が動いている事を全く把握出来ずにいた。何故なら、パポピが活動中は装置が止まっていたから。


「マサキ、パパさん、いってらっしゃい!」

「行ってきまーす!」

「うん、行ってくるよ」


 パポピが来てからの日常。結城家は家にロボットがいるのが当たり前になっていた。日中は家事手伝い、夜はマサキや家族の話し相手。マサキが休みの日には彼の相手。家族で出かける時は彼女も一緒に出かけた。

 パポピの体の中の装置の修復が可能になるまで、早くて後150年――。



 救援信号発信装置はパポピが眠る度に信号を流し続けていた。特殊なエネルギーに変換されたそれは次元の穴を通り抜け、第2文明の彼女が戻るべき時代にまで辿り着く。それをキャッチした観測所は、すぐにその結果をパポピを作ったラボやを運用していた政府機関に送った。

 未来からの帰還途中で時空跳躍が失敗すると言う想定外の事態に、関係各所は大いに頭を悩ませる事になる。事実が明らかになった時点で、早速対策会議が開かれる事になった。


「この信号の発信パターンを解析したところ、パポピは現地の住民に確保されたものと思われます」

「機密保持のために破壊すべきだ!」

「しかし、今パポピが留まっている時代の科学レベルでは完全にシステムを把握する事は出来ないはずです。それに装置から信号が送られてきている以上、まだ通常通り稼働している。つまり保護されているものと思われますが……」

「しかし映像などは送られてきていない。正しい情報が送られてきていないのは問題だ。最悪の想定もしておくべきだろう」


 堂々巡りの会議は続く。数日かけてスタッフが導き出した答えは、回収ロボを送り出すと言うものだった。あらゆるパターンを想定して、破壊力の強い武器も装備する事になる。その威力は、21世紀の科学を遥かに凌駕する規模のものが用意された。

 当然ながら、そこに至るまでにも様々な意見が飛び交う。


「ここまでの威力のものを付ける必要はないんじゃないか?」

「詳しい状況が分からない以上、念には念を入れた方がいい。パポピを安全に回収するためだ」

「何、戦争を仕掛ける訳じゃない。使わない事が前提だ」

「そうだ。このロボの目的は飽くまでもパポピの回収だからな。戦闘はギリギリまで避けるように組み込んである。大丈夫だ。大きく歴史が変わるような事はない」


 こうして、パポピが知らない間に回収ロボ『ワビビ』が作られる。パポピと違い、見た目は20代の青年型、しかも各種機能をボディに詰め込んだため、ぽっちゃりオタク体型のスタイルになっていた。完成後、行動決定AIにパポピ回収用のプログラムをインストール。

 全ての準備が終わったところで、現代に向かって時空跳躍を開始した。彼が次元の穴を通り抜けて現れたのは、パポピが舞鷹市に落ちてから90日が過ぎた時間軸。


 設定時間のブレは最初の想定の範囲内だったものの、場所は舞鷹市から遠く離れた他県に降りてしまう。救援装置が壊れていたたために、位置情報が不完全に送られていたのが原因だった。


「ここが、パポピのいる時代……。しかし、パポピの位置が分からない。何故?」


 時空の穴から飛び降りたワビビはすぐに周囲をスキャンする。周りの建物や生き物達の情報を分析し、現在の時間軸と救援装置の信号との整合性を確認。救援信号がこの時代から発信されていた事を確信した。

 次にパポピの位置情報を把握しようとしたものの、いくら感度を上げてもレーダーには引っかからない。この想定外の結果に彼は首をひねった。


「やはりこの辺りにはいない。降下位置が大幅にずれたのか?」


 信号は夜にしか発信されない。しかも過去にまっすぐ飛ぶ信号は同じ時間軸上には広がらない。信号に位置情報が記録されていなければ、信号の発信情報を頼りに捜索する事は不可能だった。

 この状況はワビビが作られた時点でも想定済み。現状を把握出来たところで、今度はパポピが発する磁場の取得に切り替える。時空跳躍ロボ特有のパターンをキャッチして位置を把握するのだ。


「パポピ、どこにいる? どこに……」


 しかし、故障状態のパポピのマグネットパターンは通常よりかなり微弱なものとなっており、彼に記録されていた正常時のパターンサンプルとは合致しなかった。それをセンサーの範囲内にいないものと判断したワビビは、降下地点から移動しながら捜索を続ける事にする。


「パポピ、必ず見つけ出す。どんな手を使っても……」



 その頃、パポピは回収ロボが来ている事も知らずに、ご近所の皆さんと談笑していた。外出すればいつの間にか周りに5~6人ほど集まって、その話題の中心には彼女がいる。パポピは自身が超古代に作られたロボットだと言う出自を誤魔化しながら、常に周りに気を配って話の流れをコントロールしていた。

 頭の回転も早く、決して暗い方向に話を持っていかない彼女の手腕にご近所の皆さんは心地良さを覚え、だからこそ人気にもなっていたのだ。


 下校時に偶然この光景を目にしたマサキも、パポピがこの世界に馴染んでいる事が嬉しくて話しかけずに遠くから見守る。パポピは談笑している途中でマサキの気配に気付いたものの、その付かず離れずの距離感から気配を読んで知らないフリを貫いていた。



 その頃、ワビビはパポピの反応を探しながら道路を歩いていた。見た目が小太りの典型的なオタクスタイルと言う事もあり、通行人から速攻で不審者扱いされてしまう。しかも、探索モード稼働中の彼は白目で口は開きっぱなしで挙動不審。怪しまれないように見た目は普通の人間のように作られてていたものの、だからこそ逆に目立ってしまっていたのだ。

 パッと見が重度の薬物中毒者のように見えてしまっていた事もあり、駆けつけた警察官も彼を要注意人物と認定する。


「そこの君、ちょっといいかな?」

「……」


 パポピの探索にの全てのリソースを振っていたワビビは、この警察官の要求をガン無視。その完全スルーっぷりにヤバさを感じた警察官は彼の肩に手を置こうとする。この時、ワビビの自動防御機能が反射的に働き、警察官は後方に弾き飛ばされた。


「き、貴様っ!」


 攻撃を受け、身の危険を感じた警察官は警棒を手に間合いを詰めていく。この時点で探索の邪魔をする人間の存在を認識したワビビは、警察官の方に顔を向け、その戦力を分析した。

 その原始的な武器を見て、取るに足らない障害だと結論付けた彼は逆に警告する。


「邪魔をするな」

「何者だ! 何をしている!」

「邪魔をしたら殺す」

「な、何だとっ!」


 ワビビの感情のこもってない脅しにビビった警察官は銃を構える。明らかな敵意を向けられた彼は、目の前の障害を排除しようと警察官に向かって歩き始める。当然、この行動に警察官は更なる驚異を覚え、反射的に発砲した。

 当然、あらゆる事態を想定して作られているワビビに警察の銃程度の攻撃は効かない。着弾してもお構いなしに歩いてくる彼にビビった警察官は逃げていった。


「ば、バケモノォ~」

「……この時代は、こう言う世界なのか」


 警察官を追い払った後、ワビビはパポピも同じ目に遭ったのではないかと推測する。警察程度ならパポピでも軽くあしらえるだろうけれど、その騒ぎを聞きつけたもっと強力な組織が彼女をさらったのだろうと。

 そう結論付けたワビビは、改めてパポピの救出について考え始めた。そして、自分もまた優秀だと思わせる事が出来れば、その組織も動くに違いないと言う作戦を導き出す。


「この街を少し破壊しよう。そうすれば……」


 ワビビは内蔵されている武器を体から取り出して、周囲の建物に向かって標準を合わせる。全てはパポピを助け出すために――。

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