エピローグ

「ねぇ、太陽!まだお仕事終わらないの?」


 転勤先で4年を過ごし、地元に戻って来て初めてのハロウィン。

 三十路を迎えた今年、太陽はある決意を持ってこの日を迎えていた。


「お腹すいちゃったよー!」


 ミニワンピの可愛い魔女が、太陽に空腹を訴えている。


「よしっ、と・・・・ごめん、お待たせ。終わった」

「やった!じゃ、早くご飯にしよっ」


 在宅勤務だったため、お昼休みの間に仕込んでおいた夕飯が、月菜の手によって温められ、湯気を立てていい匂いを漂わせている。


「月菜、ワインも買ってあるから、ワインとワイングラスも準備しておいてくれる?」

「はーい!」


 キッチンの奥へ向かう月菜の姿を確認すると、太陽はデスクの一番下の引き出しを開け、小さな箱を取り出し、羽織っていたカーディガンのポケットへ忍ばせた。



「「ハッピーハロウィン!」」


 言葉とともに、赤ワインの入ったグラスを軽く合わせる。

 一口飲もうとした月菜を、太陽は止めた。


「ちょっと待って」

「えっ?なにっ?どうしたの?」

「グラス、置いて」

「・・・・うん」


 キョトンとした顔で、月菜は言われた通りにグラスを置く。

 その月菜に。

 大きくひとつ深呼吸をし、太陽は尋ねた。


「トリック・オア・・・・マリー・ミー?」

「まりーみー?」


 オウム返しのように繰り返す月菜の前に。

 太陽はカーディガンのポケットから小さな箱を取り出すと、月菜に向かって蓋を開けた。

 心臓が、まるで別の生き物のように、体中で暴れまわっているような気すら覚えながら。


「えっ・・・・」


 ようやく意味が理解できたのか、月菜の顔に徐々に喜びが広がってゆく。


「もちろん、マリー・ユーだよ!嬉しい・・・・ありがとう、太陽!」


 ミニワンピの可愛い魔女が、うれし涙を浮かべながら太陽を見つめる。


(これが本当の、『ハッピーハロウィン』だね)


「ハッピーハロウィン」


 この上ない幸せを感じながら、太陽は小さく呟いた。



【完】

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