後編 依り代〜ふらり彷徨う霊魂の器な二人〜
私は気づいたら国分寺市の姿見の池に来ていました。
来るまでの足取り、私の意識は半分夢見心地な気分。これには理由がある。
ひととおり散策し疲れて円形のベンチに腰掛け休憩。
――ずっと声がしてる。
他の人には聞こえない声が私には聞こえるんだ。
「君はその人を連れてふらふらりと彷徨っているがどうやらボクと同じ体質らしいね」
私は急に話しかけられてハッと気を取り戻す。
この人、誰っ!?
顔を上げると美しく整った顔立ちのすらりとした長身の男が目の前に立っている。
「君は恋ヶ窪伝説を知っているか?」
「まあ」
モデル? アイドルかな〜? って思わせちゃうぐらいイケメンオーラが半端ない。
『――ああ、ひどく懐かしい。あなたをあたしは知っている』
「依り代をあまり困らせてはだめだよ。勝手に体を使ったりしていけないな」
『あの人と会えたら必ずこの子から出るわ』
実は私、平安時代の幽霊に取り憑かれている。普通の人は信じてくれない。
彼女が来たいというから西国分寺の恋ヶ窪伝説のある姿見の池にやって来ていたのだ。未練と
私は目の前の初対面の青年にドキドキしている。
(このドキドキは私じゃないっ! 鈴さんのものだ)
「君は霊魂の器になって望みを叶えているのか」
「だって霊魂が私の体に勝手に入ってくるんです。私だって
「へえ、感心だね。ボクは歴史学者の
「私、私は
「ボクは……『俺は重忠だ』」
「『えっ?』」
「『ようやく会えたな、鈴』」
『重忠……さま?』
私の中から鈴さんの霊魂がするりと抜けていく。同時に朝霧さんの体からも霊魂が出てくるのが見える。
薄い色素だが私にははっきり見えた。
――武士の姿のイケメンと美しい鈴さんは手を取り合いそして抱き合う。
『ありがとう、静。やっと会えたの、重忠さまに』
『ありがとう。礼を申す。翼殿、静さま』
眩く光る二人の魂は幸せそうに微笑んで天に昇っていく。
私は泣いていた。
朝霧さんがハンカチを取り出し私の涙を拭いてくれる。
「ありがとうございます」
「いや、良いんだ」
この人、顔も格好良くて素敵だけどホントに紳士な雰囲気だな。
僅かばかり胸キュンしちゃう。
「静さんは霊能力が強いんだね」
「はい、まあ。朝霧さんもですよね」
「ボクは歴史学者兼陰陽師だからだ」
「あなた、陰陽師なの?」
「はい、生家は代々の陰陽師です。君みたいなド素人はいくらご実家が神社でも無理はなさらない方が良いですよ」
はあっ!?
なんかちょっとイヤミな言い方じゃないの?
素敵な人とか思ったのに前言撤回だっ。
「ボクも君も依り代体質、霊魂の器になってしまいやすい。充分に気をつけて」
「言われんでも気をつけるわ〜っ!」
むか〜っ。
朝霧翼は踵を返して私の前からいなくなった。
イヤな奴っ!
私は姿見の池を見、それから空を見た。
――良かったね。
平安から鎌倉時代、遠く古しえに生きた二人。
あさづま太夫は畠山重忠を愛した。
出会った武蔵野の地で死して尚ずっとお互いを求めていた。
あさづま太夫が身投げした姿見の池にはこれからも伝えが残る。
恋ヶ窪伝説は悲恋だけれど私は見届けたわ。
悲劇に散った女性一人の魂が救われたのなら私はやって良かった。
決めた。
私はまた、ふらり迷える霊魂の依り代になる。
了
ふらり依り代〜畠山重忠恋ヶ窪伝説〜 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE
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