第17話 キャロルって可愛いよね!?

 ——放課後

 「ねえアサカゼくん、私と一緒に帰らない? 日本人のお友達なんて初めてだから色々教えて……?」

 その言葉とほぼ同時に朝風の右腕は暖かく柔らかい感触に包まれる。

 突然の出来事に理解の追いつかなかった朝風が視線を落とすと、腕に抱き着いたエマが上目遣いで見上げていたのだ。

 日本のことを教えてほしいと言ってくれるエマを振り払うのは得策ではない気がした朝風は腕を抱かれたまま対応を考えていた。

 「ちょっとエマ! 何でアサカゼの腕に抱き着いているのよ! 離れなさい!」

 エマが朝風の腕に抱き着くのを見るや否やキャロルは二人を引き離そうとエマの背中にしがみ付く。

 「離れる……離れるからッ……! くすぐったいからやめて……!」

 二人をを引き離す事に成功したしたキャロルは朝風を守るかのようにエマとの間に割って入る。

 「わ、私の婚約者ってみんな思ってる朝風が浮気者だって言われたらベネットの名誉に傷が付くのよ!」

 素直にやきもち妬いたって言えば良いものを……可愛いんだからお前は……

 キャロルを挟んだ向こうにいるエマと目が合うと、同じことを思っていたのかニヤリと笑った。

 分かるぜ、キャロルの素直じゃない所可愛いよな。

 エマと分かり合えた気がした朝風は大きく頷くとグッと親指を立てた。

 「アサカゼッ! あんたまで何なのよ! それとエマも反省してないでしょ!」

 「まあまあ、良いじゃないか。 キャロと三人でも良ければ一緒にエマも帰らないか? 俺も日本のこと色々知って欲しいし」

 朝風がエマを誘うとキャロルは声に出しての抗議はしないが少し頬を膨らませた。

 「私はそれで問題ないよ。 キャロルもいいかな?」

 いいこと閃いたと言いたげに表情を明るくしたキャロルは朝風の手を握り、エマに視線を向ける。

 「別に良いけど、エマはアサカゼと手を繋いだり腕組んだりしちゃ駄目なんだからね?」

 「うんうん、ありがと。 じゃあ帰ろっか」


 帰る前にソフィアさんに用事があるとキャロルに言われた二人は事務所前で待っていた。

 「アサカゼくん、さっきの見たよね? 私に手を繋いじゃ駄目って言った時のキャロルの顔……長い付き合いの私でもあんなに強い敵意初めて向けられたよ……」

 「確かに昔から負けず嫌いな性格だったけど敵意を誰かに向けるのは俺も初めて見たな……でも、俺を使ってキャロを揶揄うからだろ?」

 エマはギクっとした様子で一瞬表情を引き攣らせると苦笑いを返す。

 「バレてたか……でも素直にはなれないけどアサカゼくんも取られたくないキャロルが可愛すぎて!」

 「それは本当に俺もよく分かる! 相手に対抗するため恥ずかしいって顔しながらもくっ付いてくる時とか本当に可愛くてさ……」

 「何その話! もっと聞かせて!」

 朝風とエマがキャロルが可愛いという話題で白熱していると戻ってきたキャロルが頬を染めて二人を睨む。

 「なんか知らない間に仲良くなってると思ったら私が……か、可愛いって話で意気投合してるって何よ!」

 「ねえ、見てアサカゼくん! これだよ私たちが求めてる可愛いは!」

 流石に本人の目の前で可愛いなんていうのは恥ずかしいだろ……

 それに厳密にはエマの可愛いと俺の可愛いは違うものだろうし。

 「返事してあげないのアサカゼ? 仲良しのエマが言ってるわよ」

 キャロルに笑顔を向けて場を流そうとするが許してはもらえなかったらしい。

 「ほら可愛いんでしょ私が! ほんと、アサカゼは私のこと大好きなんだからもう……」

 自分で言って自分で照れんな! 本当にお前って奴は……

「デレるキャロルも可愛い……堪らん……」

キャロルの隣のエマは鼻血でも出しそうなくらい興奮気味の様子。

 こっちはこっちでおじさんみたいな事言ってるし。 米国人の個性すげえな!

 「さあ、帰るぞ。 お腹空いたな、今日の夕食は何だろう」

 強引に話を切り上げて帰ろうとする朝風をキャロルは引き止める。

 「昼間、堂々と手を繋いでくれるって言った癖に……」

 小さく控えめに手を出したキャロルは不満そうに唇を尖らせた。

 「言ってしまったからには仕方ないな……これで満足か?」

 「一度決まった事が守られないのが嫌いなだけよ……」

 手を繋いで嬉しい気持ちを隠せないキャロルは朝風から視線を逸らした。

 「それじゃ帰るか」

 手を繋いで仲良く歩き始めた二人をエマは見送った。

 「私を完全に忘れて二人の世界に行っちゃったね……でも、あんなに幸せそうなキャロルの邪魔はできないよ……よかったね、キャロル」

 二人の背中が完全に見えなくなった頃、エマも家への道を歩き始めた。


 キャロルの家が見え始めた頃後ろを振り返った朝風はエマがいない事に気がつく。

 「おい、キャロ。 エマを置いてきちゃったみたいだぞ……」

 「エマの事だし私たちに気を遣って一人で帰っちゃったのよ多分」

 やはりキャロルと昔からの友達であるエマも優しい性格をしているらしい。

 エマには明日お礼を言わないとだな……

 朝風は米国で初めてできた友達であり、キャロルの親友のエマに心の中で頭を下げたのだった。

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9割デレな異国のツンデレ幼馴染に『お前が好きだ!』と伝えるために過去を変えてみせます!! アオゾラカナタ @AozoraKanata

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