エピローグ

-再び旅へ-


 明朝ギルド・グラーナの前。マスターのシォマーニおじさんが見送りに出てくれている。


「それじゃボク達はもう行くよ、今までありがとうマスター」

「最後まで世話になったなマスター・シォマーニ・・・こんなに物資をくれて」


 ルーブルに渡されたバッグは人間一人分の身長と変わらない大きさ。中は食料からアイテムで一杯だ。


「お主らはこの町の危機を救ってくれた英雄じゃ・・・このぐらい特別扱いしても罰は当たらんじゃろう」


 マイちゃんとデルト君もお見送りに来てくれている。昨日3人でさんざん泣いたからもう涙はない。宿屋の方にはこの子達の3ヶ月分の滞在費用を出しておいたからしばらくは大丈夫かな?



 5人で正門までゆっくり歩く、正直名残り惜しいけど歩みは止められない・・・あっという間に町の入り口に着く。そこにいたのは。


「おお、黙って行っちまうのかルーブルの旦那よぉ!水くせぇぜ!!」

「貴族の言いがかりから俺達のギルドを守ってくれたんだな、すまん!!」

「ルーブルさん達が今度来る時は『お貴族様のご意向なんざクソ喰らえ』って言えるように俺達も強くなってやるぜ!」


 リザードマン戦で協力してくれた30人のCランクのメンバーだった、その後で何名かはランクアップしたらしいからBランクか。まさかそのみんなが待っていてくれていたなんて思わなかったよ。


 ルーブルは付いてきていたマイちゃんとデルト君を前に引き寄せてから話す。彼はホントにボクのやりたい事を正確に汲み取ってくれる。


「見送りありがとう!みんなに頼みがある・・・実は」


「皆まで言うんじゃねぇよ!その子達の面倒だろ?!事情は知らねぇが英雄様の頼みじゃしょうがねぇ!」

「この子達は品が良いんだ、だから俺らにとっちゃお姫さんと坊ちゃんだ!この子達のこたぁ心配いらねぇよ!」

「俺らがバッチリ教育してやっからよぉ!酒の飲み方からイカサマの仕方に女の口説き方とかその他モラモラを」


「やめてよね!この子達にヘンな事教えたらボクが鉄拳でぶっ飛ばすから!!」


 ボクが本気で怒るとみんなゲラゲラ笑い始めた。釣られてボクも笑ってしまう。


 まさかみんなでマイちゃんとデルト君の面倒を見てくれるとは思わなかった。余計な事を教えそうな気もするけどマスターもいるから安心だ。


 昨日から抱えていた重い気分がみんなのお蔭でなんだかスッキリしたよ。


「ライオネットは名誉会員の扱いにしておくぞい、達者でな!」

 「マスターもだ、無理しないで現役続けてくれ!」


「旦那、次来た時には戦術教えてくれよな!」

「何とかガッコウの土産話も聞かせてくれや!」

「今度ぁアンタらもガキの2~3人作って会いに来いよ!」

 「もぅ恥ずかしい事言わないでよ!デリカシーないなぁ!!」


「今度はアタシが会いに行くから!お元気で!!」

「お2人にはお世話になりました!どうか道中お気をつけて!」

 「2人とも、仲良くしなきゃダメだよ?そろそろ行こうかルーブル?」

 「ああ」


 正門を出るボク達、町のみんなは見えなくなるまで手を振ってくれていた。



◆◆◆



 今回の事で自分達2人では限界がある事を知ってしまった。王国や貴族が持っている権力はいち個人が勝てるものじゃない。


「ねぇルーブル、ボク達この町にまた来れるかな?お貴族様の事は根が深いようだから・・・」


 いつもは思慮深くネガティブに考えがちな彼からでた言葉は意外なものだった。


「心配ない、ギルドのヤツラの強さを見ただろう?アイツらもこれからどんどん強くなる・・・そうすれば今度はギルド自体が強くなるんだ、貴族の権力にも負けないぐらいにな」

「どういうこと?」


「国も貴族もギルドも所詮は人間の集まりだ、だったらギルドにも強い人材が揃えれば貴族でもうかつには手出しできなくなる」


 そうか、権力を生み出しているのは神様なんかじゃなくて集まった人間それ自体なんだ!だったら冒険者のギルドも強くなれば貴族に負けないぐらいにもなれるハズ!


「幸いあのギルドは新人教育に力を入れている、入ってくる人材はどんどん強くなる・・・それに」


「マイちゃんとデルト君もだね?!今度会う時が楽しみだなぁ・・・さぁ、ボクらも旅を続けようよルーブル!」


「おいおい、あんまりくっつくなよ・・・バッグの重心がぁ」

「ふふふっ、いいじゃんここにはボク達しかいないんだから!」


 頭も切れて戦闘でも頼りになるのにいつまで経っても照れ屋さんなルーブル、ボクはそんな彼が大好きだ。


 行こう、エーゼスキル学園に。確かにボク達の力じゃ限界はある、でもスキルには戦闘力だけじゃなくって他にも使い方があるハズだ。それを学びに行こう!


 せめて目の前の困っている人達を助けられるように。




◆◆◆


―修羅の目覚め―



 町の外側で正門から少し離れた大木の陰で2人の兵士がこそこそしていた。一人は遠眼鏡ではるか向こうをのぞいている。


「・・・あの2人は町から遠く離れました」

「ぃ良し、町の反対側に待機している連中に作戦指示を書いた伝書鳩を飛ばす・・・これでムカつくアイツらをブチ殺してやる!当主様からは一切手を出すなと言われたがそれじゃ俺らの腹のムシはおさまらん!」


 そう言って兵士は鳩の足に小さい筒を付けようとする。コイツらはウィルマさんとルーブルさんを襲うつもりね、そうはさせない!


「はぁっ!」

「ぅおおぅっ!」


 アタシはクォーターパイクを兵士に投げつけた。びっくりした兵士は咄嗟に避けたけどうっかり鳩を飛ばしてしまう。筒はつけられる前だったから良かった、じゃなきゃ何も悪くない鳩まで殺さなきゃならなかったから。


「隊長、伝書鳩が反対向こうへ逃げました!!」

「てめぇ何しやがんだ!・・・ああ?何だこの小娘は??」

「貴方たち、ウルカ・・・ロジャーの兵ね?ウィルマさん達はやらせない!」


「ガキが当主様を呼び捨てだとぉ?引っ叩いて躾けてや・・・」


  ズシュッ!


「お、おい!大丈夫か!!」

「が・・・がこぉ・・・がふっ!!」


 アタシのショートスピアを口で受けた兵士は喉まで突き刺さっていて即死だ。スピアはコイツらのものを拝借した。偵察していたとは言え自分の武器を放りっぱなしにしているなんて兵士失格ね。


 兵士からショートスピアを引き抜いたアタシはそれを振るう。こんなヤツラの返り血なんて浴びたくない。


「このガキ!よくも俺の部下を・・・殺してやる!」

「・・・ふっ!」


 激昂した兵士がショートスピアで襲い掛かってくる。同じ武器だから間合いも同じだけど今のアタシじゃ体格が小さいから不利だ。連続で攻撃を防いでいると力負けしてうっかり片足をついてしまう!


「はっ!粋がってた割にはやっぱりガキだ、死ねぇぇぇ!!!」


 兵士のショートスピアがアタシを狙う。ここはカウンターで!


  ガキィィィィン!


 気が付くとデルトがアタシの前に出て盾で槍を防いでいた。


「ぐぁっ!テメェは!!」

「お嬢様は僕が守る、シールドラァアアアッシュ!」


 デルトが盾ごと突撃すると兵士はショートスピアを取り落とす。


「くそっ!こんなガキがもう一匹・・・」


 その隙をついてアタシはウィルマさんのアドバイス通りに、ショートスピアに鬼力を込め土を溶かして溶岩を作り出す。そのまま兵士に向って放つ!!


「デルト、逃げて!はぁぁぁあああああああ!!!」

「な、スキル!!こんなガキにぃぃぃぎぃゃぁあああああああああ!!!」


 アタシの作り出した溶岩をまともに浴びた兵士は全身を焼かれて死んでいった。鬼力はそんなに使っていないから大丈夫だ。アタシのスキルが完成したわね。


「ふぅ、助かったわデルト」

「お嬢様、お一人でこんなことしちゃダメですよ?」

「分かってるわよもぅ、コイツらは連絡を取り合ってウィルマさん達を襲おうとしていたから・・・やっぱりウィルマさん達を追い出したのはロジャーのヤツラだったわね?」

「気持ちは分かりますけどもうこんな事は止めて下さい、お嬢様が殺人罪で捕まる所は見たくないですから・・・それより早くクォーターパイクを拾って町に戻りましょう!」


 アタシのクォーターパイクを拾ってデルトと一緒に逃げる。


「・・・これで少しはウィルマさん達に恩を返せたかな?」

「こんなの恩返しのウチに入りません、あのお2人はスタンピードでも無傷だったしアースドラゴンを仕留めた人達なんですから!こんなヤツラに襲われたって返り討ちですよ」

「そうね、まだまだお返しはできないか・・・アタシ達の受けた恩はこんなものじゃないもんね」


 アタシの憎むロジャー・ウルカンの兵士を殺害したけど・・・まだ足りない。もっと強くならなきゃ!



<終>

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2人のライオネット naimed @naimed

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