魔法に魅せられて
@tonari0407
あなたに魅せられて
あるところに、幸せなお姫さまと騎士がおりました。
お姫さまは、美しいガラス細工のように
心配性の騎士はお姫さまを
「もうっ! 私だってたまには一人になりたいわ」
と逃亡されることもしばしば。
その度に、騎士は顔を真っ青にして、大事な人を探すのです。その様子を見て嬉しそうに
「今日はね、王子さまが会いに来てくださったの。とても素敵だったわ。
私が……王子さまと結婚しても、
「もちろん、お守りいたします。
私は
2人は愛し合っていたのです。
城内の庭を散歩する際は、騎士はお姫さまの
転ばないように。
辛いことのないように。
いつも笑っていられるように。
庭園を歩く二人の姿は、城で働くメイド達や訪れた人々の目に
しかし、王子はその様子を見て心を痛めるのでした。
ある日のことです。
お姫さまは思い詰めた表情で騎士に問いかけました。
「私はいつになったら魔法を使えるようになるのかしら? 」
「いつかできるようになりますよ」
騎士の声は温かいものでした。しかし、お姫さまには届きません。
「いつかっていつ?
メイドにも使える魔法が、なんで私にはできないの?!
早くしなきゃいけないのに。
泣いて泣いて、魔法でしか寝られないことがどんなに歯がゆいことか、貴方にはわからないでしょう! 」
お姫さまの目からはボロボロと涙がこぼれ、白銀の髪を
「どんな魔法が使いたいんですか? 」
その様子をじっと見ていた騎士は、
「私の望みを叶えてくれる魔法よ。
何かが足りないの。幸せなのにいつも何かがいないのよ。
だから……だから、
お姫さまは叫びました。
「わかりました。
第十三番聖典、これはあなただけに
でも、辛い思いをするかもしれない。
今よりも苦しくなるかもしれない。
その
「じゅうさん……?
なぜかしら、その数字だけでも胸が痛むわ。
でも、私はやってみたい。
ねぇ、約束してくれる? どんな私になっても貴方は側で支えてくれるって」
「ええ、もちろんです」
騎士はお姫さまの瞳を見つめ、深く
翌日、王子とメイド、そして騎士の見守る中、お姫さまは『第十三番聖典』を読むこととなりました。
書かれた言葉を読み上げることができたら、お姫さまは足りない何かを知るでしょう。
「姫様、どうぞ」
騎士が手渡したのは、黄ばんだ二つ折りの小さな紙でした。お姫さまはそれをじっと見つめ、震える指で紙を開きます。
しかし――
「あっ、ああ……ああああぁぁぁぁ……」
最後の方は声にもなりませんでした。
彼女の細い指から紙がこぼれ落ち、ベッドの脇にヒラリと舞い落ちます。
お姫さまが自身の頭を握った拳で叩き始めたので、すかさず白い服のメイド達が押さえます。
王子はメイドに魔法使用の指示を出しました。
「先生、いつもすみません」
聖典を大事そうに拾い上げた騎士は自分よりも若い
「ご主人……それは?」
「これは息子の手紙です。『母さんいつもありがとう』って書いてあるだけですが。突然の事故だったので最後の手紙になりました」
◇
お姫さまは、
しかし、神に願っても、何をしても彼女の願いは叶うことはありません。
彼女は深い悲しみにもがき苦しんだ末に、現実の世界を忘れてしまったのです。
「一生君を守り抜くから、ずっと一緒にいてください」
といった
可愛がっていた
自分の本当の願いが何なのかさえ、忘れてしまいました。
忘れられた城の輝きを心のフィルターに映して。
彼女が時折、思い出したように
「魔法を使いたい」
と訴える度に、騎士は聖典を見せるのです。
それは絵や手紙、写真。
王子が空に旅立ったのは13歳の時でした。
長い年月の中で、自身が憧れの王子役を勤めることもなくなった初老の騎士は、それでもお城に毎日足を運びます。
隣にいられることが
彼女の瞳が喜びに輝くことが
騎士の唯一かつ最大の願いだったのです。
今日も騎士はお姫さまの手をとり、どこかへゆっくりと歩みを進めます。
二人は幸せそうに微笑みあっておりました。
〈おしまい〉
魔法に魅せられて @tonari0407
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