第5話 新しい……?

「ただいま!」

「おかえりなさい、あなた」


 玄関を開けると、ライヤがぱたぱたと出迎えてくれる。

 そのままぎゅっと抱きしめ合うのが僕らの習慣。


「バイタル正常……今日は何事もありませんでしたか?」

「うん。絶好調さ」


 あの日から数年。

 僕たちは約束どおりに結婚して、幸せな生活を送っている。


「もう晩ごはんができていますから、先に食べてください」


 リビングへ入ると、テレビの音が耳に入ってくる。

 聞き覚えのある声だった。


「街頭インタビューです! お二人はご夫婦ですよね?」

「「はい!」」


「あっ! あの時インタビューしようとしてきたリポーターの人……今も仕事してるんだなあ」

「さっき、彼女も”家電男子”と結婚することになったと発表してましたよ」

「そうなの!? 家電カップル、どんどん増えてるね」


 本当に、気づかない間に世間は変わっていくんだな。

 僕は何となく感傷に浸りながら食卓についた。

 今日のメニューは豪華だ。

 大ぶりのカキフライにみずみずしいアボカドサラダ。

 小鉢を見るとレバニラ炒めに納豆とブロッコリーのマヨネーズ和え……


「食後にはブルーベリーのヨーグルトも用意しましたよ~」

「いやいや多いって!」


 どうして急にこんな大量の料理を用意したんだろう?

 今日は何か特別な日だったろうか……カレンダーを見てもその答えはつかめない。

 でも、困惑しながらお皿に向かっているとようやく事態が見えてきた。


「やはり街中には沢山の家電カップルがいましたね。それではCMのあと、今回新たなを発表した四菱電機の社長への独占インタビューをお届けします! チャンネルはそのまま~!」


「子育て機能……?」


 子育て……それって、まさか……


「あなた。覚えてますか? ……いつか出来るようになったら、私と赤ちゃんを作りたいって言ってくれましたよね?」


 テレビ画面には『官民連携のプロジェクトがついにゴールへ 少子高齢化の解決なるか』というセンセーショナルな見出しが踊る。

 ライヤのほうへ振り返ると、彼女はたまらないといった調子で抱きついてきた。


「ですから、今からたくさん食べて、たっくさん精をつけてくださいね♥」


 すっかり慣れた二人きりの生活……

 子どもの頃の夢を叶えながら、そっと小さな幸せを守れたらいいって思っていた。

 だけど、やっぱり僕らを取り巻く社会はどんどん変わっていく。

 そうして僕らが夢物語だと思っていたことが本当のことになっていくんだ。


 新しい家族。

 また1つ夢が叶うかもしれないという期待に、僕らはこれまでにないほどワクワクしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

家電娘との生活~幼馴染のドライヤー娘に世話を焼かれる2人きりの1日~ たけし888 @loba888

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ