誇り高いチーム

 異常な最高瞬間速度を叩きだしたため、翔の三輪車はレギュレーション違反がないか念入りに調べられた。

 しかし、エンジンの搭載はなく、翔がこいでいたのは間違いないため、記録はそのまま大会公式に認められた。


「いいレースだったな」


 三郎が呟く。


 翔はゆっくりと頷いた。

「父ちゃんとター坊のおかげだよ」

「照れるじゃねぇか!」

「あい!」

 三郎は豪快に笑い、ター坊は元気よく片手をあげた。

 翔も思わず笑う。

「父ちゃんの没収を取りやめてくれた警察官にも感謝しないと」

「あいつはちょっと固すぎだ! 俺が説き伏せなかったら危なかったぜ」

 翔はうつむいた。

「結局スピード違反したし、何も言えないよ」

「しばらく運転を自粛して、勘弁してもらおうぜ。事実上の運転停止だ。ほら、顔を上げろよ。いい景色だ」

 レース会場から見る夕暮れは美しく、誇り高いチームを照らすのにふさわしい。

 ふと、三郎が涙声になる。


「泣けるほど綺麗な夕暮れだぜ。別れの日として最高じゃねぇか」


「父ちゃん……」


 翔は三郎に掛ける言葉が見つからなかった。

 レースに出場できれば成仏する約束だ。

 人情を大切にする三郎は、約束に律儀な人柄だ。


「翔、ター坊の前で泣くんじゃねぇぞ」


「分かっているよ!」


 翔は努めて明るい声を発した。

 三郎は震え声で笑っていた。

「たまには思い出してくれよ! 楽しかったぜ!」

「僕も一生の思い出が出来たよ。本当にありがとう、父ちゃん!」

「あい!」

 互いに別れの挨拶はすんだ。

 三輪車から青白い光がゆっくりと抜け出ていく。

 光は名残惜しそうにたなびきながら、もうすぐ夜を迎える空へと消えていった。

 温かな風に吹かれ、翔は深い溜め息を吐いた。

「帰ろう、ター坊」

「あい!」

 翔は三輪車を担いで、ター坊は保護者に抱えられながら、帰路に着くのだった。

 その日の星空はいつにも増して輝いていた。

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そこの三輪車、スピード違反です 今晩葉ミチル @konmitiru123

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