十六 守り神

 女性はヒールを脱ぎ、黒鞄をそっと床に置いた。


 会社から帰宅して、いつものように玄関先に飾られている蛇の抜け殻に話しかけた。


「――元気にしてる?

 ……あの日私は君に押しつけちゃったのかもしれない。ごめんね……エリカちゃん」


 フラッシュバックするのは、小学生の頃。

 高学年になってから教師のセクハラに悩まされるようになった。


 時を同じくして、弟と近所の女の子が同時に行方不明になった。

 真夜中、金運のお守りとして居間に飾ってあった蛇の抜け殻から、弟たちの声がした時には仰天した。

 とうとう弟たちは帰って来なかった。


 それから教師のセクハラがぱったりやんだ。教師は虚ろな目をして学校を辞めた。

 母親は当時の彼氏と別れ、今では植物栽培にハマっている。


 女性は抜け殻に話し続けた。

 答えが返ってくることは二度となくても、続ける気だった。


「あの頃、私、守りきれなくてごめんね。二人とも、現実に希望を持てないくらい、達観しちゃってたんだろね……。

 でもさ、やっぱこれは言っちゃずるいかもしれないけど、アキホシがいないと寂しいね……。エリカちゃんがいないと虚しいね……。アキホシもエリカちゃんも、一緒に、大人になりたかったね」




〈終〉





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白蛇 @kazura1441

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