【幕間⑦】お友だちは大事に

「講義……サボっちゃってよかったのかな?」


ミーシャはポツリとつぶやいた。


「う~ん……確かにちょっと罪悪感あるよね。でも、1人じゃない……友だちが一緒だから、大丈夫な気もするよ?」


「そうそう! たまにはサボりだって悪かないって。特にミーシャは天才なんだから、講義の1つや2つ受けなくたって問題ないっしょ!」


女子生徒のポーリスと男子生徒のカッツェが、それぞれミーシャの疑念に応えてみせる。


「僕たちもミーシャちゃんがいろいろと教えてくれたおかげで、魔術にちょっと自信持ててきたし……たまの息抜き、楽しく過ごしたいな」


もう1人の男子バンデーも、2人に続いて自分の意見を述べる。


「そっか……みんながそう言うなら、うん! きっと悪くないんだよね」


「当たり前じゃない! 私たち、友だちなんだから!」


別の部屋から顔を出したクオリが、おいしそうな焼き菓子とお茶を持って4人のところに歩いてくる。


「ほらほら、見て! 私の家から送られてきたお菓子なの。お母さまがお気に入りでよく家に出入りしている菓子職人の新作だからって。ここのお菓子は本当に美味しくて、私も大好き! だから、みんなと一緒に食べたかったんだぁ。ぜひ、召し上がれ!」


クオリは持ってきたお菓子を小皿にとりわけと、全員に行き届くように分けていく。


「うわぁ……これは美味しそうだね、クオリちゃん」


「しかし、ここがクオリの部屋か。思ったよりもずいぶんとキレイな感じだな」


「思ったより? カッツェくんはいったいどんな想像をしていたのかな? まさか、足の踏み場もないほどゴミが散乱してる……とか?」


クオリがやや眉を吊り上げながら睨みつけてくると、カッツェはすぐに首を横に振る。


「いやいやいや! そういう意味じゃねぇよ! いやただ、もう少しなんというか、ガサツな感じというか……」


「あ、やっぱり! 私の部屋が汚いと思ってたんでしょ! デリカシーが無いわ、サイテー!」


「まあまあ、それよりもせっかくのお菓子なんだから。ちゃんと食べないともったいないよ」


「ふふふ、バンデーはいっつも食いしん坊だよね。まあ、今回は私も待ちきれない感じだけど……ね、ミーシャちゃんは甘いもの、好き?」


ポーリスから急に話を振られ、ミーシャは若干慌ててしまう。


「え、甘いもの? うーん、どう……かな。私の親は平民で、お菓子なんて食べさせてもらえるほど余裕はなかったし……ちょっとよくわからない、かな?」


ミーシャの話を聞いていた4人は、一瞬だが動きを止めてしまう。


自分が何か悪いことを言ってしまったのかと不安になるミーシャだったが、その空気を破ったのはクオリだった。


「ごめん! そうだよね。ミーシャの生い立ちとか、そういうの考えてなかった。ダメだよね、友だちなのに。本当にごめん!」


クオリがそう謝ると、ほかの3人も口々に謝罪の言葉を述べていく。


「ううん! 違うよ。別に……それが本当っていうだけだから。みんなが謝ることなんてないよ」


「う~ん、でも……あ、それじゃあさ! ここは最初の一口をミーシャに食べてもらおう。ぜひ、感想を聞いてみたいし」


「うんうん、いいねそれ! さ、遠慮なく食べなよ!」


「カッツェったら、これ用意してくれたのはクオリちゃんだよ? まるで自分で持ってきたみたいに言っちゃって!」


「でも、僕もミーシャから食べてもらうっていうのは賛成だよ。だって、いまや僕らの中心はミーシャって言ってもいいくらいだし」


4人から向けられる期待の眼差し。


笑顔の友人たちから勧められるがまま、ミーシャは目の前に置かれたお菓子を口にする。


パクリっ!


「……っ! これ、おいしい。甘くて、サクサクで!」


「よかったぁ! 気に入ってくれたみたいで。さあ、ミーシャの口にも合ったみたいだし、みんなも食べて食べて」


「いただきまーす! ん、これは……うーん、おいしいおいしい」


「バンデーお前、ちょっと食べるの早すぎだろ! まあ、確かにこれはウマいけど」


「たしかに甘いんだけど、甘すぎない感じがいいね。バンデーじゃないけど、ドンドン食べたくなっちゃうかも。ね、ミーシャちゃん?」


「う、うん。これ、すごく好き……かな?」


ミーシャが口元を緩めつつ答えると、それを見ていたクオリがニッコリと笑う。


「やったー! ミーシャが笑ってくれたわ!」


「え?」


クオリの言葉にミーシャはハッとする。


「私たち、友だちになったけど……ミーシャってあんまり笑わないでしょ? あ、別にそれが悪いってわけじゃないの。でも、やっぱり友だちなら、ちゃんと笑った顔も見たいなって」


「そう、かな?」


「ミーシャは違うの? 友だちの笑ったところ、見たくない?」


クオリの問いに、ミーシャは少しだけ逡巡する。


友だちの笑う顔――大切な友だちが笑う顔。


「うん、私もお友だちの笑うところは……見たい、見ていたい」


「だよね! じゃあ、ミーシャも遠慮せず笑ってね。私たち、友だちなんだから!」


お友だちは大事。


お友だちの笑顔は大事。


お友だちと一緒に笑うのは大事。


ミーシャは自分の心のなかで、こだまするように響く言葉を何度も噛みしめていた。

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【第1章完結】追放された魔王令嬢は反逆するために勇者学園へ通う ~次期魔王として英才教育を受けたワタクシに敵う人間なんておりませんわ~ 五五五 @gogomori555

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