あなたの推しをトップアイドルに
えでぃ
短編注意
『今日はゴキブリの素揚げを作りまーす』
『いやいや、先輩聞いてないんですけど』
『だって言ったら来ないでしょ。大丈夫ちゃんと口直しにゲンゴロウもあるから』
『それ口直にならない』
残業を終えて最推しのVTuberである『御堂さざね』ちゃんが先輩の『赤津るみ』ちゃまとのオフコラボ配信を歩いて帰りながら見ていた。
VTuber事務所の”ファンスタリズム”に所属する3年前から活躍している精霊女王の『赤津るみ』こと通称『るみちゃま』と活動半年の記念が迫っている座敷童の『御堂さざね』こと通称『わらしちゃん』が初めてるみちゃまとオフコラボをすることになった。
初の先輩とのオフコラボ『わらしちゃん』リスナー通称『家主』としてはこの配信を逃すことはできないのだが、残業により予定時間に家に帰りつくことができず、仕方なくスマホの画面で配信を見ながら帰路についているところである。
配信を見るのであればこれでいいのであるが、初めての収益化より”投げ銭”を行い認知されている『エリーと家主』としてこんな記念日に投げ銭を行わないことは万死に値する行為であるが、スマホで配信を確認しながらの投げ銭はメッセージを記入している間配信が音声のみとなることは許せないため通常は投げ銭はしないと決めている。
それでも、記念日に投げ銭が遅れてしまうこともエリート家主としては許せない。
悩んだ末、投げ銭を実行することとした。
『それでは、油を注いで』
『ちょ、先輩待ってください。フライパンの水気拭いてください』
『大丈夫だって。火をかけます』
『熱い、油がはねてますから』
『きゃははは』
そんな音声が聞こえる中「先輩に振り回されるわらしちゃん可愛い」と最高金額で送信ボタンを押したところで、目の前が真っ白になった。
腕で目をかばい何事かと光の方を見てみると、そこには特急電車の車掌室で一生懸命ブレーキを引いて片手で退くように払いのけるしぐさをする車掌がいた。
その光景を最後に死を迎えることなった。
そう、死を迎えることとなったはずであったが、目が覚めると病院にいた。
「あ、やっと起きた。何なの?電車の前に飛び出すとか馬鹿なの?それにいくら死にかけたからって2日間も眠ってるとかどれだけ心配させれば気が済むの?」
聞き覚えがある声に驚き体を起こして声の方に顔を向けると、『るみちゃま』がベット脇の椅子に座っていた。
「何呆けてるのよ。さっさと退院して家に帰るわよ」
「『るみちゃま』なんで」
頭が混乱してつい声に出た言葉に『るみちゃま』は顔を赤くして怒り出した。
「私だっていくら馬鹿で、無神経な奴でも契約者が死にかけたら助けるわよ。今度から私のそばを離れたらだめなんだから」
そう言って、医者を呼び退院のお墨付きをもらうと病院を後にした。
病院から出るとそこにはピンクのラメ塗装を施したワンボックスが止まっていた。
その車の後部座席を開けたるみちゃまは私の手を引いて車に乗り込んだ。
「みつさんこの趣味の悪い車何とかならないの?」
「趣味が悪いとはるみちゃん遅れてるね」
そう言って助手席からこちらを見てきたのはファンスタリズムの社長の『長澤貞光』でファンの間では『みつさだ』と呼ばれているファンスタリズムのイベントで顔出しできないVTuberの代わりに表に出て活動している人物だった。
「みつさだ?」
「『健人』は大丈夫か?」
「健人は疲労で2日寝込んでたんだからみつさんのせいだろ」
「ひどい、健人お前の精霊性格悪すぎ」
「みつさんのことはほっておいて扉閉めて帰るよ」
その声とともに運転席から顔を見せたのはファンスタリズムの1期生で秘書の『布田さとし』こと通称『ひげおじ』がいた。
「は?ひげおじ?」
「そんな幽霊でも見たような驚き方をしなくてもいいんじゃないかな?俺の運転そんなにダメ?」
「そうだな、免許取り直した方が良いんじゃないか?」
「みつさんひどすぎる」
そんな感じで、楽しい雰囲気で走り出した車内だがいまだに状況が一切飲み込めない私は街の光景が変化していることなど気が付くことなく目的地まで連れていかれた。
「はい、着いたよ。おかえり」
あるビルの前にたどり着いて車から降ろされた。
そこには、一度も来たことがないはずなのにどこか既視感を感じた。
「さて、みんなも心配していたから部屋に戻る目に事務所に顔を出してね」
みつさだに言われる前にるみちゃまに手を取られ引っ張られてエレベーターで向かった先には『ファンスタリズム芸能事務所』と書かれていた。
その扉を見てやっと気が付いた。
この扉はVTuber事務所『ファンタリズム』が私の最推し『御堂さざね』が第5期生としてデビューしたときに発表したしたゲーム、『ファンタリズム~あなたの推しをトップアイドルに』のPVで最初に出てくる場面がこの扉であった。
まだ発売日が決まっていないゲームだが、5期生が登場するため購入は決めていた。
いくら幾度も見たPVの中に出てきた扉とはいえ、誰かのドッキリだろうと納得していた。
「ほら早く」
扉の前まで来て一向に動こうとしない私に業を煮やしたるみちゃまに押される形で事務所の中に入るとクラッカーが多方向から同時に鳴らされた。
「「退院おめでとう」」
そこにいたのは先ほど運転していたひげおじ以外のファンタリズムに所属するVTuber全員であった。
その中にはもちろんわらしちゃんも居り、目が合った瞬間に笑顔を向けられて感極まって気絶してしまった。
倒れる私にびっくりして駆けつけるみんなの声を聴きながら、この世界にこれたことに神に感謝した。
あなたの推しをトップアイドルに えでぃ @alice_edyi
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