凱旋の鐘は誰がために
第1話 凱旋の鐘は誰がために(改訂版)
ケンカって、できればしたくないよな。
おれも争いごとは大の苦手。特に仲のいい友達とのケンカなんて最悪だ。
揉めるぐらいなら我慢我慢。トラブルは御免だから、口を塞いで貝になろうっと。厄介ごとは避けていくのが賢い生き方だもんな。
世界を川に喩えるならば、おれたちは川底でひしめき合う石ころだ。
最近川の流れが速すぎて、ちょっぴりくたびれることも増えてきた。
前から流木、右には大岩。ザリガニさんがバックします。全部を避けようとしていると、頭がどうにかなっちゃいそう。
おまけに隣の石ころのやつが、どういうつもりかちっとも道を譲らないんだ。ルールを守らぬ不届きものめ。石ころ同士のぶつかり合いは避けるのがマナーだろう?
だけどちょっと待ってくれ。頭にくるけど、そんな時には少しだけ冷静になって周りを見て欲しい。
顔を上げたら、目の前に深い窪みってことはないかい。
デリカシーのない石ころは、きみが間違った道を転がり落ちていく所を助けてくれたのかも知れないぜ。自分だって傷つくことを怖れずに、身体ごとぶつかってきてくれたのかも。
確かめるのは簡単だ。大海まで辿り着く頃に、憎たらしい隣の石ころの姿を眺めてみればいい。
そこにピカピカ光った石がいれば、ソイツは自分を磨いてくれた好敵手か親友だ。傷ついた分だけ、丸くて優しい形に近づいた素敵な石ころ。
だけど憎たらしい隣人の変身を悔しがることはないぜ。
そいつは、鏡写しのきみの姿だからさ。
そう考えれば、たまには隣の石ころとぶつかり合うのも悪くない。だってそれは、お互いを輝かせるのに必要な行為かもしれないんだから。
今回はぶつかることを怖れない石ころのお話だ。
昔々。その石ころは王様だった。
王様のくせに甘党で、スイーツ作りが大の得意。ついでに部下にも甘々だけど、本人のことだけは舐めない方がいい。
なんたって彼はこの国で最も憎まれる存在。魔王さまなんだから。
勇者に敗れ、角も地位も失った。どういうわけか、そんな石ころが流れ着いたのは、宿敵のいる老人ホーム。因果は巡り、巻き起こるのは因縁の大喧嘩の再来だ。
時は移ろい、この国が平和を謳歌して数十年。雑踏の中に世界を震撼させた魔王がふらりと現れたと思ってくれ。
異世界老人ホームへようこそ!! 生ける屍が最強のお年寄りたちを介護します 糺乃 樹来 @Fhi763
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