閑話 仮眠室より ふたたび愛を込めて

閑話 澄んだ月夜のひとりごと

 あまり得意ではないけれど、たまには俺自身について話そうか。


 櫂森海 24歳、独身男。出身 日本。


 職業 介護士。


 まあ以上だ。だけどこれじゃあなんにも面白くないから、もう少しだけ詳しく。


 おれが育ったのはまあ、あんまりお上品な環境じゃなかった。親父は居なかったし、お袋もあまり家には寄り付かなかったからね。


 そんな俺が立派に(と、言わせてくれ)育ったのは、今は亡きおばあさまのおかげだ。


 婆さんは80歳を超えてもバリバリ働いていた。めちゃくちゃ厳しい訳じゃなかったけど、要所要所ではキッチリはみ出しちゃいけないラインってのを叩き込んでくれたと思う。


 明け方に帰っても小言を言われた試しはないけど、箸の持ち方には厳しかった。ようするに、そういう人。


 最後はずいぶんぼけてしまっていたけれど、それでも最後まで負けん気の強いひとだった。



 そんなおれが、なんの因果か異世界なんて所に来てしまって、もうずいぶん経つ。



 いろいろあったけど、元の世界と同じ介護士をしているのは、この仕事が好きなんだろうな。


 生き物ってのは嫌でも歳をとる。


 威張りん坊の先生も、お偉い会社の会長も。みんが夢中になっているアイドルだって。みんないつかは、しわくちゃのじいちゃんばあちゃんになるんだ。


 だけどそいつは悪いことばかりでもない。


 重ねた歳月はきっと、自分のためだけじゃないから。


 彼らの歩いてきた道に、おれたちは立っている。


 介護士ってのも悪くないだろ。そんな人たちと毎日会えるんだから。


 やっぱり危ないし大変そうだって?




 そうそう、危険といえばとびっきりの話が一つある。


 タイトルをつけるなら、ええと。


遺産レガシーへの喝采」ってところかな。


 主役はご存じ勇者と魔王のデコボココンビ。


 切っ掛けはそう、少し前の2人のマジ喧嘩からだった。だけどそいつが、なんの因果かホームの閉鎖なんて話に繋がっちゃうんだ。


 国も巻き込んだデッカい祭り。英雄に軍に割を食った悪漢たち。相対するは、うちのホームの年寄りたちだ。


 なんたってこの話の見せ場は、おれと英雄の決闘シーン。

 暴力は嫌いだけど、たまには格好いいところも見せないとね。


 

 その日はいつも通りの穏やかな——っと、もうこんな時間か。


 今日のところはここまでにしておこう。


 え? 気持ち悪いところでやめるなって。


 ごめんごめん。だけど許してくれないか。あんまりうるさくしていると、うちのお姫様が目を覚ましてしまう。


 途中で起こされた時のアサの寝起きは、この世で最悪だからさ。




 そのかわり、とっておきの話をたくさん用意しておくよ。大商会のトップだったホビットに、巨人の皇帝。入居を拒否するベヒーモスさんを砂漠に迎えに行った話もいいな。


 だからみんな、おやすみなさい。


 どうかあなたにも良い夜を。

 





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 ※後書き


まずはお詫びを。

読了後、この場所に後書きが書かれていることが気になる読者様もおられるかと思います。申し訳ございません。


お伝えしたいことがありまして、このような形を取らせていただきました。


《完結したわけじゃないよ!!!》です。


お仕事コンテストへの参加のために、一息つけるお話を書かせていただきました。ですがまだまだお話は続く予定です。


どうぞ引き続き、カイとアサ、お年寄りたちのお話にお付き合いください。


糺乃より 読んでくださった皆様に特大の感謝を込めて












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