エピローグ

 それからどうなったかだって?


「おい兄ちゃん、いい加減このバカ魔王を追い出せ」


「なにを言う。それよりこれを食え。吾輩特性プリンだ」


 とりあえず、今日も勇者と魔王は絶好調。だけどみんなが気になっているのは、デコボココンビの漫才じゃないよな。


「すいません2人とも、呼び出しみたいです」


 そいつはきっと、こっちの方だ。


 着信音が鳴り響く。


 流れ出るのはイカした人魚の歌姫の声。


 甘い歌声で恋を歌う、最高にご機嫌なナンバーだ。


 海から届いた出来立てほやほやの新曲なんだ。


 ルル・シャンテは海に帰った。


 今では長い陸暮らしのせいで染み付いた病も洗い流して、再び音楽の都に黄金の波を起こしている。ルルさんの帰還で、アコヤガイのステージも立て直したんだとか。


 それもこれも。バーのマスターが貝殻に込めてくれた魔法の歌のおかげだ。


 その歌を聴いた瞬間、ルルさんは全てを思い出した。身体を震わせ、涙を流しながら歌った彼女は人魚の姿を取り戻したんだ。


 遠く離れたバーテンの歌声で、お姫様が本当の姿を取り戻す。まったくお洒落なおとぎ話。ミュージシャンとしても死人のおれじゃあ、こうも上手くはいかなかっただろう。


 おれには伝書鳩くらいがお似合いだ。クルッポウ、メッセージのお届け物です。




「もう、恥ずかしいからやめてちょうだい」


 白く綺麗な指が、おれの手から通信魔道具をかすめとる。


「せっかく人魚に戻れたのに、あっちに拠点を移さなくていいんですか。ライブの予定もたくさんあるんでしょう?」


「いいのよ。これからは自由に行き来できるんだもの」


 通話ボタンを押してルルさんはおれの胸に通信魔道具を押し返す。


 そう、なんと彼女はおかに残ったのだ。


 こいつだけは予想外。もちろんライブのたびにあの街に帰っているけれど。定期的に海に戻るなら体調は問題ないそうだ。


 まあ、盲目の彼女からすれば、設備の整ったこっちの方が過ごしやすかったのだろう。海の底じゃあ、段差を削ってバリアフリーってわけにはいかないもんな。



「それに、もう少しだけそばで見ていたい人がいるの」



 電話口から聞こえる不機嫌そうなアサの声に気を取られて、ルルさんがなんと言ったかは聞き取れなかった。

 

 だけど目の前に佇む歌姫の微笑みには、今日も品の中に人を魅了するなにかが光っている。

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