第5話

 蒼生くんは噛みつくようにキムシンを見る。初対面の人間に失礼を働いたことを、さすがのキムシンも察したのか気まずそうに黙りこむ。

 ふう、と溜息をついてからゆっくりと立ちあがる。自分よりもだいぶ大きなキムシンにも蒼生くんは怯まずに、冷たい目を向けている。


「あのさ、花守はこんなやつだけど、大切な友だちなんだよ。だから、ちゃんと大切にしてやって。傷つけたら、承知しないよ」


 な、と言いながらキムシンは蒼生くんの肩に手を乗せた。なんだか爽やかふうな笑みを残してから、やっと離れてくれた。


 キムシンの非礼をあたしがかわりに詫びると、蒼生くんはべつに、と言い放ってから、すっかりきらめきを失ったビールを飲んだ。蒼生くんはじっと黙ったままだ。


 せっかく、公演後の楽しい飲みだったのに。キムシンのせいですっかり気まずくなった。帰りがけにあいつの頭叩いてもいいかな。

 それに、蒼生くんのことをああいうふうに言われたのも、非常に気分が悪い。


 キムシンには、蒼生くんとあたしを傷つける意図などいっさいない。だからこそ、悪質だ。悪意の自覚がない悪意ほど、どうしようもない。


「……ねえ、前からちょっと考えてたんだけど」


 蒼生くんは難しい顔をして、顎に手を当てている。眉間に軽くしわを寄せたまま、あたしを見据えた。


「俺たち、付き合わない?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

例えばこの世界の最大級の愛が唐揚げだったら 来宮ハル @kinomi_haru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ