第4話

外から物凄い雨の音が聞こえる。

喉の痛みが楽になってきた。こわごわとヨーグルトを口に含むと、痛みはなく馴染みの味が口の中に広がった。身体が回復している。今日は役所に行きたかったから、助かった。寝たきり人間も、寝ているだけでは生きられないのだ。

バスから見える風景が、昔から好きで、役所に向かう道には川が流れていて、いつも見惚れる。今日みたいな雨の日は、川の水が黒く荒々しく、飲みこまれそうで美しさを感じる。



中庭から見える教室に、カサイ君が見える。クラスの男子にじゃれつかれて、鬱陶しそうに、でも笑顔だ。いつもの顔と、随分違う。男子の精神年齢は、女子のマイナス6歳説。あれは、どうなんだろう。じゃれついている男子は、小5かもしれないけど。カサイ君は、16歳でもいいんじゃないかな。

そして、美術部顧問のイノウエは童顔だ。さすがに、高校生には見えないけど。年齢を知った時は、驚いた。10歳ぐらい若く見える。指輪をしていないから、独身だろう。高校教師の給料って、どのくらいなんだろ?結婚できないくらいじゃないだろうから、彼女はいないとみた。


「搾取されたい」


昨日の、ヒナコの言葉を思い出す。イノウエの声が、とてもいい声だと。ワイシャツから出る手首が、とてもセクシーだと。

搾取して欲しいけど、搾取してこない人だから安心できるのかもしれない。眉間に皺を寄せながら言う。とりあえず、搾取って言葉はやめなよ、女子高生が。そんな、私の言葉は勿論、ヒナコには響かない。カサイ君の存在など、小指の先ほどもない。

搾取してこないイノウエ、搾取されない自分。ただ、その世界にいるのだ。

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水の向こう @saori19

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