第37話 「虎に翼」の個人的な感想

*これはひっじょうに人気の強かった「虎に翼」の個人的な感想です。自分の中でこの作品がどんな作品になったのか、ある程度まとまったので書いてみようかと思います。

あくまで個人的な完走なので、気に食わねーなと思っても怒っちゃ嫌よ。


それなりに朝ドラというものを見てきてしまっている人間なのですが、「今までのない朝ドラ!」「朝ドラ最高傑作!」という感想を見るとね、10年ほど前の「あさが来た」を思い出すのですよ。あの時もそんなこと言われておったなー。うん、「あさが来た」も面白かった。あれも好きよ。玉木宏さんのイケ旦那ぷり、あさちゃんの魅力が満載で、何よりも14歳の時の清原伽耶さんの演技が絶妙だった。

面白かったし、好き。

でも、私の中で、もっと好きな作品はあるな、という感じ。

それに似ている。


「半分、青い。」って、脚本とかよりも何が一番良かったかって、ヒロイン。めちゃくちゃだけどものすごくいい。めちゃくちゃだからものすごくいい。思い返せばあれば、北川悦吏子先生が、描きたい展開と描きたいシュチエーションの宝庫だったのかなぁとなんとなく思ったり。


虎に翼、確かに面白かったし、リアルタイムで完走できた。好きなシーンもたくさんある。

でも、脱落した人の意見とかちょっと……も、ものすっごくわかるし、「半分、青い。」とか「スカーレット」ほど好きかと聞かれたらそうでもない。

なんだったら、後半以降の「虎に翼」より、今の「おむすび」の方が楽しく見ている。


なんというかね、風呂敷を広げた割に全体的に尺が足りない。

一週間で描こうとしている内容に対して、ぶっちゃけ「後一話あったら!」と思いながら毎週見ていた。

この「尺が足りない!」って言うのは、スカーレット以降の朝ドラが抱える悩みなんじゃないかと思ったりする。(もちろん尺が短い方がいい!と言う意見もあると思う)


特に尺が足りないと思ったのが、原爆裁判の時に私の中で可視化されていて。あの裁判が始まる時に「あの戦争はなんだったのか」と振り返ってもいい、と呟くけれど。

ドラマ内でそもそもあんまり「戦争」を描いていなかったよね、と言うところで「ん?」ってくるんですよ。これってもしかして「戦争の真の悲惨さ、戦争がもたらす人間の狡さ」を描ける人が少なくなってきているのかなと思う。


また、原爆裁判の時は百合さんの認知症、トラちゃんの更年期とかも重なっていて、「トラちゃんがどうこの裁判に対して向き合っていたのか」がちょっと私の中でわかりづらいなあ、と思ってしまった。


日常のあらゆる場面が可視化されるのはものすごく良かったし、いろんなエピソードやシュチエーションがありましたが、若干ネタがとっ散らかっている感はあった気がします。

後半以降の虎に翼で脱落した人をちょっとだけ知っているのだけど、とっ散らかりが物語全体の流れに弊害を起こしていた感を覚えたんじゃないかなと勝手に想像している。

後なんというか、台詞回しが「おしん」みたいだなーと思った。ちょいと説明的すぎやしませんかっ?


逆に、個人的に良かったところというのは、やっぱり伊藤沙莉さん。「芋たこなんきん」で町子を藤山直美さん以外が、「カーネーション」でイトコを尾野真千子さん以外、「ブギウギ」で趣里さん以外が、スズ子を演じられない必然性があったように、伊藤沙莉さん以外がトラちゃんを演じられるかと思ったらそうでもない。「この人以外この役は演じられない!」という必然性はやっぱり朝ドラには必要なのかなーと思ったりもした。

マツケンと法律の対話をしているシーンが何回かあったけど、それが個人的には好きだったかなと。


しかしこの朝ドラで改めて思ったのは、SNSでの感想の伝播の恐ろしさだったりする。これは「好きを言語化する技術」という三宅香帆さんの本でも書かれていました。Aという人がすごいSNSで言ったら、その思いが自分の中で染まって、まるで自分もそう思っているようになってしまう、という。

それが賞賛ならいいけど、逆だったら「ちむどんどん」の時のような悲劇になるのよ……。

虎に翼を賞賛している方で、それがどれだけ自分の意見として消化されている方がいるのだろうかというところがものすごく気になりましたね。


色々思うところはあるけれど、本当に全体的に楽しんで見ていました。個人的なカタルシスは5週目までと、新潟編の涼子さまとたまちゃんのシスターフッドに泣いたわ。轟とよねさんが法律事務所を開いて恋愛関係にならなかったのがものすごく良い。これで恋愛関係になってたら、私は「よねさん!あんたそんな人じゃなかったでしょ!」って、胸ぐら掴みたくなっていたと思う。


「私たちのような人は昔からいましたよ? それをみんなが特別視しただけで」

という最終話のセリフが、このドラマの芯をついているんだな、と。


ただもう一つだけ付け加えるなら、再放送された「あまちゃん」がZ世代にバズったように、このドラマの真の評価は、そのうちにBSプレミアムの再放送枠で放送された時だと思う。

数年後見ても本当に名作だと思うか、面白いと思うか。

それがちょっと怖くもあり、ちょっと楽しみだったりする。

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世界で一番軽い創作日記 2 神山雪 @chiyokoraito

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