第2話 その女、反逆者アンナ

目が覚めるような濃い赤色をしたショートカットの髪に、同じ色をした目。


顔は幼く、背も小柄ながらも、数々の苦境を乗り越えてきたのであろう彼女自身を表すかのような頬の深い傷。


「だから、おじさん、こっち!」


彼女はまた僕に声をかける。

森の木陰に座っているだけの僕を、同じ王国からの逃亡者だと思ったのだろうか?


失礼な。

いや、間違ってはいないが。


「僕はいいから、君1人で逃げなさい」


そう声をかけるも、僕の方を見つめ微動だにしない彼女。


ああ、相当意思は固いな。


「あっちだ」


また後方から叫び声が聞こえる。

王国軍。しかも、あの顔は見覚えがある...


マーシャルだ。

僕が王国にいた頃、齢20そこそこにして、部隊長まで上り詰めていた男。


そんな男がなぜこの少女を追いかけているのだ...?


いや、考えている暇などない。

奴に顔がバレれば、それこそ再度自分が追われる羽目になる。

逃げるしかない。


「君、どこに逃げるつもりだ」


赤髪の彼女に話しかける。


「どこって。こんな森の中じゃわかるわけないでしょ。とりあえず走るのよ。」


ごもっともだ。

こんな森のはずれで土地勘があるわけがない。

ただ、それは王国側も同じなはず。

とりあえず走って巻くしかなさそうだな。


草木をかき分け、文字通り無我夢中に走る。


「君、なんで追われてるんだ」


純粋な疑問を赤髪の彼女に投げかける。


「走ってる時に普通そんなこと聞く?脱走よ。脱走」


「そうか」


それ以上は問い詰めなかったが、やはり不可解だ。ただ脱走した程度で出てくるような追手ではない。

部隊長。下手すれば更に上の役職についているクラスの追手だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


軽く10分は走っただろうか。

後方に奴らの気配はない。


「巻いたか...」


そう安堵するも、赤髪の彼女は警戒を緩めない。いや、緩めるどころか更に警戒しているようにも思える。


「いや、奴は...」


彼女が何かを言いかけた瞬間だった。


「そこまでだ」


僕たちの目の前には、王国の腕章を纏った大男が立ち塞がっていた。


...マーシャルだ。

回り込まれた?しかし、どうやって?


いや、思い出した。

奴の能力はテレポート。

その力で、数々の賊を制圧してきたことで名声を得た男だ。


僕たちは泳がされていたに過ぎない。

奴はいつでも追いつけたのだ。


なぜこんな単純なことを忘れていたのか。

5年のブランクで鈍ったか。


が、戦場ではブランクなど言い訳にはならない。

僕の存在など気にせず、大男はニヤリと笑って言い放った。


「国家反逆の罪で、その場で始末することが許可されている。終わりだ。反逆者アンナ」


赤髪の彼女も、腰にぶら下げた短刀を握る。

そう、戦うしかない。

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破滅の刻印 絵馬 @emamame

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