光陰矢の如し
大隅 スミヲ
光陰矢の如し(コウインヤノゴトシ)
一年が過ぎ去るのは、とても早い。
それは歳を重ねるごとに感じるようになってきていた。
特に最近は仕事が忙しいせいもあって、いつも以上に年月が過ぎ去るのが早く感じられる。この前まで春だと思っていたのに、すぐに夏が来て、あっという間に冬支度だ。
仕事に追われ、家庭を顧みない日々。
家に帰るのはほとんど寝に帰るだけのようなものだった。
特に子供たちの成長は早く、この前まで幼稚園児だと思っていた長男があっという間に高校生になっており、これには驚かされた。
ひさしぶりに残業がなかった。
定時で会社を出るなんて、何年振りのことだろうか。
まだ暗くなる前に家路を急ぐ。
いつも見慣れている風景すらも違って見えた。
家に帰ると、家族がダイニングテーブルの前に集まっていた。
一体、何ごとだ?
警戒するわたしを尻目に、長男が後ろで組んでいた手を前に出した。
パンッ!
なにかが破裂するような音がした。
わたしは驚き、目をつむった。
「おとうさん、誕生日おめでとう」
家族全員の声。
破裂音はクラッカーだった。
そうか、きょうは11月24日。わたしの誕生日だったのか。
自分の誕生日すらもわからなくなってしまっていたことに、わたしは恥じた。
家族で夕食を共にし、長女が買ってきたというホールケーキで誕生日を祝ってもらった。
妻が誕生日プレゼントとしてワインを開けてくれた。
わたしの生まれ年に作られたワインだそうだ。
幸せだった。
家がこんなにも幸せな空間だということを知らなかった。
こんなことなら、もっと早く帰ってくるべきだった。
ワインを飲みすぎたせいか、急に眠くなってきてしまった。
わたしはソファーで横になった。
明日は休みだ。
少しぐらいであれば、うたた寝しても問題ないだろう。
そんなことを考えているうちに、わたしの意識は遠のいていった。
目を覚ますと、キッチンでは妻が料理を作っていた。
ソファーで眠ってしまったことを妻に詫びる。
「たまには、いいじゃない」
妻は笑いながら言ってくれた。
テーブルの上には、なにやら豪華な料理が並んでいる。
「もうすぐ、ケーキも届きますからね」
妻が言う。
ケーキ?
ケーキなら昨日食べたぞ。
わたしは違和感を覚え、妻に言う。
「誕生日は、昨日祝ってもらったじゃないか」
その発言に妻は笑った。
なにか面白いことをわたしが言ったのだろうか。
意味が分からなかった。
「なに言ってんのよ。きょうはクリスマスでしょ」
オーブンから焼けた七面鳥を取り出しながら、妻はわたしに告げた。
光陰矢の如し 大隅 スミヲ @smee
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