第27話 走り抜けろ
怪鳥によりはるか上空から大地めがけて投げ出された僕とミミの体は、束の間地上の重力から離れて宙を落下した後、今ふたたび地面の上にあった。
「いたた……」
ぐらりと体が重い。体の重さが、地上に降り立ったせいなのか、大きな怪我を負ってしまったせいなのか、一瞬自分でもよく分からなかった。
「大丈夫か、坊主」
ぎゅっと瞑っていた目を開けてから、ようやく状況を把握した。
落下した僕の体をドゥークが、ミミの体をイチハが受けとめてくれたのだ! 体が小さくてよかったと思ったのは初めてだ。すぐそばではミミがイチハにぎゅうっとしがみついている。
「うわーん、こわかったですぅ」
「わかった、わかったから離しなさいな。もう大丈夫だから」
「むりですぅ。ミミ腰が抜けて動けませ~ん」
「まあいいわ。あんたぬいぐるみくらい軽いし、そのまましっかり掴まってるのよ」
「そうです。ミミはイチハみたいに重くないから、このまま抱っこして逃げるのです」
「もうっ、嫌味な兎ね。元気があるなら離しなさい」
「いやですー!」
二人とも元気みたいでよかった。
ふっと周辺に影ができ暗くなる。怪鳥がちょうど真上に移動してきたのだ。
「立て! 行くぞ!」
怪鳥が上空にいる今なら、塞がれていた道を通り抜けることができる。
「ギャア、ギャア」
威嚇するように怪鳥が鳴き、ばさっと一振り大きく羽ばたくと、上空からこちらへ一直線に滑空してきた。
「急げ!」
僕らは全力で渓谷を駆け抜ける。
先程まで怪鳥が道を塞いでいた場所には、木片やボロ布を集めてつくった巣がある。その脇をすり抜ける。
「ギャア、ギャア」
怪鳥の鳴き声が近付いてくる。
「卵ですよ」
巣の脇を通る時、イチハにしがみついたミミが言った。
ちらっと振り返ると、僕の身長では卵のてっぺんしか見えなかったけど、確かに巣の中に大きな卵が二つ見えた。
「よそ見するな、走れ!」
巣からだいぶ離れた場所まで走り、怪鳥の鳴き声が聞こえなくなって、ようやく僕らは足を止めた。ぜえぜえと息を切らす。
振り返ると、怪鳥は巣の場所に留まったまま、これ以上僕らを追いかけてくるようすはない。
「卵が孵る前でよかったな。さすがにあんな怪鳥三匹が相手だとひとたまりもなかったろう」
ドゥークが背嚢から出した水筒を皆に回す。
「あの母鳥は、卵を守るためにじっとあの場所を守っているのね」
イチハが巣を見つめて言う。
怪鳥は、僕から奪った服をぼろぼろに広げて卵の周りに敷くと、また卵を隠すように巣の上に座った。
「母は強しですねぇ」
なんて言いながら、ミミってばイチハにしがみついていただけなのに、ぐびぐび水を飲んでいる。「イチハもしっかり飲んでおくです」と水筒を回されたイチハも呆れ顔だ。
「日が暮れるまでにもう少し先へ進むぞ」
僕らはついに渓谷を抜けた。
もっと西へ進むと海があるらしい。
海が近いからか、岩場や砂地が多い土地にも関わらず、水の流れている川が多い。水場の近くには市が開けているはずだというドゥークの言葉に従い、今夜の宿を求めて市場を目指す。
「市場についたら、まずはナナの服を買わなきゃね」
ドゥークの背嚢から出てきたくしゃくしゃの布きれを体に巻いただけの僕の肩を、イチハがぽんと叩いた。
不定期通信 香久山 ゆみ @kaguyamayumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。不定期通信の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます