第26話 飛んで飛んで回って
おいしそうな兎を背負った僕は、怪鳥の前に飛び出す。
けれど、怪鳥は見向きもしない。
「お、おーい!」
声を出してみる。怪鳥はちらっと一瞬視線を向けただけだ。
おいしそうな兎のミミを背中の袋から出してみようかと思ったが、「やですやですやです」と袋の中にしがみついて出てこない。
仕方ないので、手近に落ちていた小石を拾って、怪鳥の足元に投げてみる。
ほんの少し気を引ければいいなーと思っただけなのに、こつん、と足元に小石が落ちるや怪鳥はかっと顔を上げて「ギャアギャア」と警告するように大きく鳴いた。けれどまだ鳥は一歩も動かない。
引き下がりそうになる足を必死に踏ん張って、怪鳥に向かって一歩踏み出す。
と、ばさばさっと怪鳥が立ち上がり大きな翼を広げた。
目にも留まらぬ速さでこちらに飛び掛ってきた怪鳥は、鋭い爪をもつ脚で器用に僕の服を引っ掛けて、一気に上昇する。
「うわあっ」
「坊ちゃんのばかぁ~」
背負った袋に入ったミミと僕は一蓮托生で鳥に連れて行かれる。風を切る速さで高度を上げる。お腹がぞわっとして、耳がキンとなる。何とか手を伸ばして怪鳥の脚にしがみつく。とても登ることなど不可能だと思えた渓谷の崖がはるか下方に見える。
「ナナ!」
「ミミ!」
地上で声を上げるドゥークとイチハが豆粒みたいだ。
いったんものすごい高さまで急上昇したあと、今度は一気に下降する。
「ひえぇぇ~」
ミミは声を上げるが、僕は歯を食いしばって声を上げることさえできない。心臓がぎゅっとなる。
渓谷と同じ高さまで落ちてようやく滑空は
と思ったら、今度はぐるぐると旋回をはじめる。すごいスピードで!
「う、うわわわわぁ~」
遠心力で吹き飛ばされそうになる。
必死でしがみつくけれど、ぐるぐる目が回ってついに鳥の脚を掴んでいた手を離してしまった!
僕の体がすぽんと宙に放たれる。鋭い爪でひっかけられていた僕の服だけを鳥の元に残して。
「わー」
「なんで手を離すですかー坊ちゃんのばか~」
ミミの体も背嚢から投げ出されて、ともに空中を落ちていく。地面がぐんぐん近付いてくる。渓谷と同じ高さからの落下だ、無事にすむはずがない。
「身を丸めろ!」
ドゥークの声がするが、風圧で体の自由が利かない。どんどん落ちる。獲物を失った怪鳥が、上空でばさりと大きな羽ばたきをする。
「あ~れ~」
翼をほんのひと
落ちる!
地面はもうそこだ!
「ナナ!」
「ミミ!」
――――――――――どすん。
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