第25話 どうぞどうぞ

「やだぁー! だめ、だめ! やです! やめてくださぁい!」

 小さな兎が悲痛な叫び声を上げる。

 この渓谷を越えるためには、道を塞ぐ怪鳥の隙を作らねばならない。兎のミミはいつもモンスターに狙われるくらいおいしそうだから……。皆がミミに視線を注ぐ。

「やだっ! やだっ! こんな小さい兎にそんな危険なまねさせるなんて、ひどいですっ」

 ミミは必死に訴える。けど、周囲は何もない岩場だし、他に方法も思い浮かばない。

「大丈夫よ。ちょっとおとりになって、あの鳥の気を引けばいいの。ほんの僅かに隙間ができたらそこを皆で一気に駆け抜ける。いちばん安全な方法よ」

「万一つかまれば、必ず助けてやるから安心しろ」

 イチハとドゥークが説得を試みるも、「やぁですよぅ」とミミは小さな体をぱたぱたさせて全身全霊で断固拒否の構えだ。僕は一歩前に出る。

「僕が行く」

 言うと、一斉に皆が振り返る。

「ナナ、だめよ! 危険だわ」

「ううん。僕だってミミほどじゃないけど体が小さいから、皆が通り抜けた最後に隙間を通れるよ」

「子どもにそんな危ないことさせられるわけないでしょ。いいわ、それなら私が行く」

 イチハが一歩前に出る。

「いや、お前らに行かせるくらいなら、俺が行った方がまだましだろう。俺が行く」

 ドゥークが一歩前に出る。

「ううん、僕が行く」

「いいえ、私が行くわ」

「いや、俺が行く」

 そう言いながら、イチハとドゥークはぱっとミミを振り返る。

「なんですか……、やぁですよ。じゃあミミが行きます、なんて言わないですよ」

 ミミがじりじり後退りする。埒が明かない。

「大丈夫。僕が行くから。任せて!」

 はっきり言い切って、皆の前に出る。

 さすが坊ちゃんですぅー! とミミが駆け寄ってくる。抱きついてきたミミを捕まえて、そのまま背嚢へ詰め込む。

「よし、行くぞ!」

 僕は怪鳥へ向かって走り出す。

「そんなぁ~」

 ぴょこんと耳だけ飛び出した兎が、背嚢の中で悲痛な声を上げた。

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