洪水

西住 晴日

洪水

その夜ははげしい大雨でした。


「大変だ。このままでは村が沈んでしまう」

村の長老がさけびます。


「入口を閉じよう」

誰かが提案しました。


さっそくみんなで作業にとりかかります。

村の中からせっせと土を運びました。若いのから老いたのまでみんなが協力しました。

そうして入口をふさぐと、もう安心です。水はやがて入ってこなくなりました。


「うたげをしよう」

村の調子者が言いました。


ふだんならみんな取り合いませんが、今日はちがいました。大雨で死んだものがいなかったことは初めてでした。

長老もやろうと言いました。

料理人は脚を器用に使って絶品をみんなにふるまいます。みんなは外の大雨なんかおかまいなしにはしゃぎました。

うたげは朝まで続きました。中には食べすぎて動けなくなってしまったものもいました。


「大変だ。水が入ってきたぞう」

村の老いた門番が走って言いました。


みんなは逃げませんでした。入口は塞いだはずだからです。それに、うたげで疲れていました。


しかし水は入ってきます。まず門番たちが死に、老いたのが死に、若いのが死に、最後に長老とこどもたちが死にました。絶品も家もめちゃくちゃになりました。


村はひっそりとしています。

誰もいませんでした。


すると、バケツを持った小僧が村を上からのぞいて言いました。


「なんだ、一匹ずつつぶした方が楽しいや」


小僧は帰りました。

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洪水 西住 晴日 @NISHIZUMI_0325

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