大魔王を討伐するための101の方法

ぶんころり

大魔王を討伐するための101の方法


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本作は前述の「紹介文(あらすじ)」に「プロローグ」を含んでおります。

未読の方は、紹介文(あらすじ)をご確認の上、以下の本編に進んで下さい。

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■第一話「速攻で回復魔法を失う」


 大魔王の城までは、魔王の城へ向かう為にゲットした、巨大な鳥っぽい乗り物が活躍を見せた。勇者ブルサンが、横笛っぽいアイテムを吹き鳴らすと、空からやたらとデカい鳥が降りてくる。これに乗り込んだ彼は、大魔王城に一直線。


 なんたって勇者が保有している魔法の行使は一回こっきり。


 寄り道をしている余裕なんて一ミリもないのだ。



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ヒントの妖精さん「アイテム欄にあるアイテムは、主人公が魔王ストラッキーノを討伐するまでの間にゲットしてきたお宝の数々だよ。どのような効果があるのかは、実際に使ってみてから考えよう! 細かいことは気にしたら負けさ!」

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「よし、大魔王が住まっている城に到着したぞ!」


 勇者は空から飛び降りると、お城の高いところに着地した。


 天守閣っぽい感じのベランダ的な雰囲気がある場所だ。


 正面に設けられた観音開きのドアを越えたのなら、玉座の間とかありそうである。


「頼む、この先に居てくれ、大魔王!」


 勇者は祈るような思いでドアを開いた。


 しかし、そこには大量のモンスターたちが、彼を待ち構えていた。


「くっ、罠かっ……!」


 モンスターは一斉に攻撃を仕掛けてきた。


 魔法は惜しいが、死んでしまっては元も子もない。


 勇者は防御力を高める魔法によって守りを固めると同時に、ドアを締めて逃げ出した。当然ながら、モンスターは彼のことを追いかけてくる。大魔王の城を舞台にして、鬼ごっこが始まった。


 後方から飛んでくる矢や魔法、得体の知れない液体などが、勇者にダメージを与える。


「このままでは、大魔王のところまで辿り着く前に死んでしまう!」


 勇者は回復魔法を使った。


 彼は治癒の度合いに応じて松竹梅と、何種類かの回復魔法が使える。


 モンスターの群れから逃げ終えるころには、そのすべてを使ってしまっていた。


「くそう、なんということだ。回復魔法が全部使えなくなってしまった」


 残された回復の手立ては、荷物入れに忍ばせたポーションのみである。


 そして、気付けばいつの間にやら、歩みは魔王城を脱して、敷地の外縁にまで至っている。モンスターから逃れる過程で、大魔王の下から大きく離れてしまった勇者である。奇襲作戦は完全に失敗だった。






■第二話「奥義の行使は大胆に」


 勇者は考えた、回復魔法もなしに、大魔王の城を攻略など不可能だと。


 そこで彼は自らが持てる最大の魔法を利用して、城を吹き飛ばすことを決めた。大魔王こそ倒せずとも、その周りを固めているモンスターはある程度、消し飛ばすことができるのではないかと考えたようである。


「くっそうくっそう、もうモンスターの奴ら皆殺しにしてやるマジ皆殺しだから!」


 決して、プッツンしてしまったからではない。


 冷静に考えて、それが正しい判断だと計略するに至ったのだ。


「これもう絶対に許さないわ! 後で泣いて謝っても確実にぶっ殺す系だからっ!」


 唾と涙を飛ばしながら叫ぶ。


 勇者は最強魔法を発動した。


 膨大な魔力の奔流が力強い閃光となり、魔王城を勝手口の方から貫く。


 ビリビリと肌が痺れるほどの轟音が、近隣一帯に響き渡る。


「ふぅぅうははははは! 魔法が戦闘中にしか使えないなんて誰が決めた!」


 やがて輝きが晴れたとき、大魔王の城には大穴が合いていた。


 お城の半分くらいが消し飛んでいる。


 直後には生き残ったモンスターたちが、お城から逃げ出し始めた。勇者の魔法によって半壊したお城から、我先にと駆け足で去っていく。その光景を勇者は少し離れた場所から、物陰に隠れて伺っている。


「よしよし、これで大半のザコ敵は排除できたな」


 気持ち良く魔法を行使したからか、心なしか表情に晴れが見られる。


 ややあって、モンスターの排出が一段落したところで、彼は物陰から身を出した。


「速攻で大魔王を〆て、魔法を取り戻してやる!」


 勇者は大魔王の城に向けて、抜き足差し足忍び足。


 王城の外壁に空いた穴から、内部に向けて再び侵入していった。



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ヒントの妖精さん「魔法は戦闘中以外でも行使することが可能だよ。色々なところで様々な魔法を使ってみよう。場合によっては、思いもよらぬイベントが発生するかもしれないよ。大切なのはチャレンジ精神だね!」

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■第三話「状態異常系が思いのほか使える」


 大魔王の城に再度アタックをかけ始めた勇者ブルサン。


 彼は極力敵とのエンカウントを避けて城内を進んだ。


 モンスターの大半は逃げ出した後だが、それでも一部の忠誠心に厚いモブたちが、各所には見受けられた。被害の把握と王城の立て直しに躍起となっている。その姿を後目に、物陰に隠れながら進む。


 けれど、すべてのエンカウントから逃れることは不可能。


 そこで彼は残る魔法を出し惜しみしながら道を進んだ。



【中ボス1】


「我は大魔王様の四天王が一柱、王龍のヴィランセ!」


「喰らえ、身体を麻痺させる魔法!」


 通路の先で待ち構えていた、黄金色に輝くドラゴン。


 その全身が強張り、ピクリとも動かなくなる。


「貴様、なんと卑怯なっ! 正々堂々と真正面から勝負せよ!」


「ボスに状態異常が効かないRPG、なろう系並にご都合主義だよね」


「ぐわー!」


 魔法の効果を確認した勇者は、その面前を悠然と歩いて進む。ドラゴンは必死に騎士道精神を説くが、平民上がりの勇者ブルサンには効果がない。更には背後から首に剣を突き立てて、王龍のヴィランセを打倒した。



【中ボス2】


「私は大魔王様の四天王が一柱、悪獣のカマンベール!」


 次いで現れたのは、まるで狼のような風体の大きな獣。


 上階に続く階段の中程で待ち構えていた。


「これでどうだ、対象を眠らせる魔法!」


「すぴー」


 獣は勇者の魔法を受けて、すぐさま眠りについた。


「戦闘中に1ターンでも眠ったら、普通は2ターン目とか絶対に来ないでしょ」


 相手は眠りに就いたことでバランスを崩し、階段から階下に向かい落ちていく。落下の衝撃で目を覚ますも、そうして生まれた隙きを勇者は逃さない。心臓に剣を突き立てて、一撃で悪獣のカマンベールを倒した。



【中ボス3】


「吾輩は大魔王様の四天王が一柱、不死のサン・ジョルジュ!」


「既に死んでいるっぽいやつには、魂を浄化する感じの魔法!」


「ぐわー!」


 勇者の魔法を身に受けて、対象の肉体が段々と薄れていく。


 相手は骸骨にローブを着せたような、見るからに生命が宿っていなさそうな存在。その眼窩に灯っていた青白い炎が、フッと息を吐きかけられた蝋燭のように消えた。直後には人型を保っていた各部位の骨がバラバラとなり、地面に崩れ落ちる。


 まるで操り人形の糸が切れてしまったかのような反応。


「この魔法、マジ取っておいてよかった。ここでこの技を使わないと絶対にクリアできない、みたいな戦闘、今まさにした気分だよ。見た目完全にアンデッドだし、麻痺や睡眠なんて身体的にも魔力差的にも通用しないでしょjk」


 以降、ピクリとも動かなくなった骨を眺めて、勇者は次なるフロアに足を進める。



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ヒントの妖精さん「麻痺や睡眠など、本作に登場する状態異常系の魔法は、術者と対象の魔力を筆頭とした各種ステータスの差により、効果の程度が決定されるよ! ボスモンスターが相手でも、場合によっては様々な魔法が効果を見せるってことだね!」

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【中ボス4】


「俺様は大魔王様の四天王が一柱、大鬼のリヴァロ!」


「おつむが弱そうなやつには、頭を混乱させる魔法!」


 見るからに脳筋ポジと思しきマッチョで大柄な鬼が現れた。


 勇者は即座に魔法を行使。


 すると先方は何を考えたのか、自ら率先して城を破壊し始めた。


 一撃でも身に受けたのなら、致命傷は免れない大鬼の一撃。それも相手がパニックの只中にあれば、回避は容易だった。勇者はサクッと相手の背後を取り、その首筋に一太刀を入れる。


 大鬼を討伐した。


 これで勇者が保有していた状態異常系の魔法は、すべてが使用済み。


「回復魔法に続いて状態異常系の魔法も品切れだ。あとは対象のステータスを操作するバフ&デバフ系の魔法と、奥義を除いた攻撃魔法くらいか。罠を解除したり、場所を移動したりするサポート系も残っているが、使いどころが難しいな」


 手持ちの魔法に不安を覚えつつ、それでも勇者は大魔王の城を進む。




■第四話「決戦、大魔王」


 大魔王の城を攻略する勇者ブルサンの戦法は、逃げて逃げて逃げまくり。ザコ敵は極力回避しつつ、どうしても戦闘が避けられない中ボスっぽい相手は、状態異常系の魔法を利用することで対処した。多少の怪我は手持ちのポーションを利用して回復。


 一階フロアに大魔王の姿は見られない。


 二階フロアも同様。


 三階フロアも、以下略。


 そうして彼は着々と、大魔王の城を攻略していく。やがて辿り着いたのは、最初にも突撃した謁見の間っぽい空間。内部に多数のモンスターを発見して、すぐさま逃げ出す羽目となったお部屋だ。


「やっぱりここ以外、大魔王がいそうな場所はなかったぜ!」


 意を決した勇者は、つい先程にも訪れた扉を再びその手で押し開いた。ギギギと音を立てて、建付けの悪い観音開きが御開帳。使用頻度が高そうなドアの割に、碌にメンテナンスもされていないのだろう。


 するとその先には彼が想定した通り、大魔王ゴルゴンゾーラの姿があった。


 フロアの最奥に設けられた立派な玉座。


 これに腰を落ち着けて、大魔王は勇者を迎え入れる。


「よくぞここまで辿り着いた、勇者ブルサンよ」


 よく来たもなにも、つい先程にも訪れたばかりの勇者である。


 相手の勿体ぶった態度も相まって、彼の怒りは最高潮。


「てめぇこの野郎、俺の魔法返しやがれマジうんこ野郎本当にもうこの野郎!」


「人は尊厳の要を奪われると、こうまでも簡単に自制心を失うものか」


 大魔王はコミュニケーション能力が低かった。


 相手のことを思いやる気持ちが皆無である。


 ちなみに大魔王以外の魔物は、すでに部屋から姿を消していた。最初に乗り込んだ時点で、勇者を追いかけて飛び出していったのだろう。おかげで室内には大魔王と勇者の姿しか見られない。


「死ねこの野郎くそ野郎マジ俺お前のこと大嫌いだからっ!」


 怒りから語彙を喪失した勇者が魔法を放つ。


 それは奥義の次に強烈で、奥義の次に消費魔力が高い魔法。


 この瞬間の為に温存していた魔法であった。


「ほぅ、まだそのような手を残していたか」


 巨大な炎の奔流が、玉座ごと大魔王を飲み込んだ。


 勇者ブルサンの魔法がモンスターを襲う。


 大魔王ゴルゴンゾーラに0のダメージ


 炎が収まったとき、玉座には依然として大魔王の姿があった。激しい炎に晒されながら、火傷はおろか身に着けた衣服や椅子さえも無傷である。更には勇者を迎え入れてから、まったく動いた様子が見られない。


 大魔王は椅子に座したまま、悠然と構えている。


「これで終わりか? 勇者よ」


「だったら次はっ……」


 勇者は次々と攻撃魔法を放つ。


 大魔王ゴルゴンゾーラに0のダメージ。


 大魔王ゴルゴンゾーラのHPが18回復した。


 大魔王ゴルゴンゾーラに0のダメージ。


 大魔王ゴルゴンゾーラに0のダメージ。


 大魔王ゴルゴンゾーラのHPが76回復した。


 しかし、どれだけ頑張っても大魔王に対してダメージを与えることはできない。目に見えない何かが勇者の魔法を遮る。あと、ちょいちょい属性を誤って相手のHPを回復させてしまう勇者ブルソンはおっちょこちょいな性格の持ち主だ。


「くそっ、手持ちの攻撃魔法が尽きた!」


「どうやらこれまでのようだな、勇者よ」


「いいや、まだだ」


 勇者ブルゾンはなけなしの魔法で自らの攻撃力を強化した。


 勇者ブルソンは手にした剣で大魔王ゴルゴンゾーラに切りかかった。


 大魔王ゴルゴンゾーラに0のダメージ。


 魔法による攻撃と同様、目に見えない何かが勇者の攻撃を遮る。繰り返し剣を振るうも、大魔王に対してダメージを与えることができない。逆に反撃を受けたことで、謁見の間に身を転がす羽目となった。


「ぐはっ!」


 痛恨の一撃、勇者に149のダメージ。


 勇者は大慌てでポーションを取り出すと、これを患部に振りかけた。大魔王の攻撃を受けたことで折れた腕の骨が、あっという間に癒えていく。事前に用意していたポーション、その最後の一本が失われた。


「どうした? 勇者ブルサンよ。余はまだ座より立ち上がってすらいないぞ」


「こ、こうなったら最後の手段だ、対象を最後に訪れた町に移動させる魔法!」


「この大魔王を相手にして、魔力差がモノを言う魔法で勝負を挑むとは笑止」


 勇者は対象を最後に訪れた町に移動させる帰還の魔法を行使した。


 しかし、大魔王には効果がなかった。


「くっ、やはり俺の魔力では、大魔王に対して魔法の効果が得られないか!」


「守るべき民の下に敵を飛ばすなど、その方には勇者としての仁義がないのか?」


「うるせぇ馬鹿! そんなもの俺が死んでしまったら元も子もないだろうが! こちとら人類の最期の希望にして、唯一世界を救えると認定されて、大々的に送り出された勇者様なんだ。そこいらの町人と一緒にされて堪るか!」


 大魔王が秘めたる魔力は、四天王などとは比較にならなかった。


 状態異常系の魔法も、ほとんど効果を発揮することがない。帰還の魔法にも抗われてしまう。実はほんの少しだけ足元が浮かび上がった大魔王は、人知れず肝を冷やしていた。けれど、その事実に勇者は残念ながら気付いていない。



-----☆攻略ヒント発生! 攻略ヒント発生! 攻略ヒント発生!☆-----

ヒントの妖精さん「今の判断はとても良かったね! 主人公の魔力値が520以上のとき、大魔王との戦闘中、帰還の魔法を当ててみよう。もしかしたら、なにか愉快なことが起こるかもしれないよ!」

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「ただ殺してもつまらぬ。勇者よ、貴様には更なる嘆きをくれてやろう」


「な、なんだと!?」


「無力な己を呪いながら、凡夫として生涯を終えるといい」


 大魔王の魔法が勇者に降りかかる。


 大魔王の魔法により、勇者の肉体はワープさせられた。


 辿り着いたのは、彼の生まれ故郷である。


 見覚えのある光景が、満身創痍となった勇者の周りに広がる。


「くっそうくっそう、なんだよこれマジ意味不明なんだけど」


 懐かしさを覚える街並みの只中、勇者は地団太を踏む。


「せっかく魔王を倒したのに、これじゃあ王様からご褒美もらえないじゃんか!」


 本音をポロリした勇者は、トボトボと生家に向けて歩き始めた。






■第五話「すべてを諦めた勇者は、ザコ敵でレベル上げを始めた」


 大魔王ゴルゴンゾーラの討伐を諦めた勇者ブルサンは、故郷の村に戻った。


 そして、酒に溺れる日々が始まった。


 幸いにして、金銭的には余裕があった。


 魔王を討伐する為の道中で得た金銭が、勇者の酒浸りを加速させる。


 お酒、美味しい。


 お酒、最高。


 お酒、人生。


 勇者はバッドステータス「アル中」をゲットした。


 宿屋でゆっくりと休んでも、翌日、体力が半分くらいしか回復しない。


 二連泊しても、困ったことに半分くらいしか回復しない。


「大魔王がカンタルの町を陥落したらしい」「ここも時間の問題だな」「勇者様はどうなってるんだ?」「それが討伐に失敗して、力を封じられてしまったらしい」「なんてこった、それじゃあ俺たちはどうなるんだ」


 酒場で交わされる民たちの声も、アル中となった勇者の耳には届かない。


 そして、酒に酔った勇者は、夜な夜な村を抜け出して野山を駆け巡った。


 アル中の固有アビリティ「深夜徘徊」である。


 締めのラーメンは欠かせない。


 深夜まで営業している店は正義だ。


 ついでにエンカウントしたモンスターを狩り、日々の酒代として利用した。大魔王には敵わないけれど、故郷の町近隣に出現するモブ敵は、魔法を失った勇者であっても問題なく狩ることができた。いいストレス発散の的となった。


「くそう、俺の魔法が! あんなに苦労して習得した魔法が!」


 そうして延々と酒を浴びる日々を過ごすことしばし。


 ある日、勇者はレベルアップした。


 各種ステータスが上昇を見せて、心身が共に鍛え上げられる感覚。


 それは久しく忘れていた成長する喜び。


「……俺には、もうこれしかない」


 アルコールに蕩けた脳味噌で、勇者は今後の人生設計を決定した。


 翌日以降、彼はひたすらに雑魚モンスターを狩り続けた。


 本能が赴くがままにお酒も呑んだ。


 ラーメンだって啜った。


 蕩けた脳味噌で、ただひたすらに弱いモンスターいじめを続けた。


 アイテム「お酒」を口にすると、生まれて間もない子供が大人になるほどの経過も、あっという間に過ぎ去っていった。勇者自身もその間に三十路を過ぎて、初老を迎えて、シワと白髪が増えていった。


 残念ながらお嫁さんとはエンカウントできなかった。


 ご町内で評判の負け組アル中勇者様である。


 代わりにモリモリと、レベルばかりが上がっていった。


 そうして大魔王の城から追放されること二十余年が経ったある日のこと。


 勇者は酒場の飲み友達に酒を一杯奢ると、誰に何を語るでもなく故郷を出た。





■最終話「決着、大魔王」


 故郷を出発してから数カ月後、アル中を極めし勇者は再び、大魔王の城を訪れた。


 生まれ故郷から現地まで、えっちらおっちら徒歩で移動してのこと。


 魔王の城へ向かう為にゲットした、巨大な鳥っぽい乗り物は使えなかった。勇者ブルサンが繰り返し横笛っぽいアイテムを吹き鳴らしても、空からやたらとデカい鳥が降りてくることはなかった。勇者はデカい鳥に見限られていた。


 大魔王のお城は二十余年の歳月を経て、立派に改修されていた。


 勇者の最強魔法を受けて倒壊した形跡は欠片も見られない。


 若さを失った勇者ブルサンとは対象的に、めっちゃ綺麗になっていた。


 その只中を勇者は真正面から突き進む。


 雑魚モンスターを相手にレベルをカンストさせた彼には、既に敵など存在しなかった。顔ぶれを一新した四天王も通常攻撃で瞬殺だった。魔法を使うまでもない。相手からの攻撃は、しかし、勇者にダメージを与えられない。


 そんな感じで出会うモンスターをすべて撃破。


 破竹の勢いでお城を攻略した勇者は、大魔王の下に到着した。


「勇者よ、よくぞ再びこの地を訪れた」


 目当ての人物は、最初に出会ったときと変わらず、謁見の間っぽい場所にいた。


 玉座に腰を落ち着けて、余裕の表情で勇者を迎え入れる。


「しかし、ずいぶんと老けたな……」


「うるさい黙れこの野郎」


 そうして語る大魔王が全然老けていないことに、勇者は嫉妬心を覚えた。


 人生も折り返し地点を過ぎた勇者は、自らの老後が不安でならない。


 大魔王は放っておいても何百年と生きるが、勇者はあと二、三十年で健康寿命だ。


 それなりに月日が経過しても、大魔王は相変わらずコミュ力が低かった。


「さぁ、かかってくるといい、老けた勇者よ」


「お前だけは絶対に殺すマジで殺す本当に殺す何があっても殺す」


 禁酒二日目となる勇者は、禁断症状で震える手で剣を構える。


 そして、いざ大魔王との戦いが始まった。


 勇者の攻撃、大魔王に187のダメージ。


 大魔王の攻撃、しかし、勇者にダメージを与えられない。


 勇者の攻撃、大魔王に210のダメージ。


 大魔王はメチャ凄い魔法を唱えた、しかし、勇者にダメージを与えられない。


 勇者の攻撃、会心の一撃、大魔王に420のダメージ。


 大魔王の攻撃、しかし、勇者にダメージを与えられない。


 勇者と大魔王の戦いは、二十余年前とは真逆のあり方を見せた。剣を交えていたのも、ほんの僅かな間ことである。レベルをカンストさせた勇者の力は、大魔王が相手であっても圧倒的であった。


「ぐはぁっ!」


 勇者の攻撃、大魔王に210のダメージ。


 勇者は大魔王を倒した。


「み、見事だ、勇者よ。よくぞ己が肉体のみから、この大魔王を倒してみせた」


 勇者ブルソンの剣によって切り裂かれた大魔王ゴルゴンゾーラが、謁見の前に倒れ伏す。回復魔法も追いつかなくなり、各所からは血を滴らせている。ハァハァと息は荒く、自らの足で立ち上がることもできない。


 勇者にとっては悲願とも言える瞬間であった。


「…………」


 しかし、その表情は覚束ない。


 何故ならば、大魔王を討伐したところで、失われた勇者の時間は戻ってこない。


 顔に刻まれた皺が、如実に増えた白髪が、たまに感じる節々の痛みが、彼の心を苛む。


「俺の人生は、こんな、こんな下らないことの為に消費されたのか……」


「そうだ、勇者よ。それこそが正しい判断なのだ」


「魔王なんて倒したところで何になる! 俺の人生には何の価値もない!」


「人の身にありながら、よくぞ我を倒した、その方の力は既に神々さえも……」


「あぁぁぁぁあああっ! ヒトの人生とは何なのだ!」


「大きなことを成そうとしたのなら、小さな努力や創意工夫をコツコツと積み上げていく他にない。それを忘れて、横着をしようとすると、必ずどこかで失敗する。急がば回れとはよく言った言葉だろう」


「んなことどうでもいい!」


 勇者ブルサンは大魔王ゴルゴンゾーラにブチギレた。


「どうしてくれるんだよ! 俺の人生!」



-----☆攻略ヒント発生! 攻略ヒント発生! 攻略ヒント発生!☆-----

ヒントの妖精さん「お酒は呑んでも呑まれるな。ビールなら中瓶五本、日本酒なら五合。これ以上は身体が持たないよ。たまには休肝日を設けたいね。これが人生の攻略のヒントだよ。でも、週に一度は浴びるように呑みたいよね! そうだよ、呑んじゃおう!」

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「今後とも小さな努力の積み重ねを忘れずに生きていくといい、ぐふっ……」


「努力した結果がこれだよ! うわぁあああああああああああん!」


 最後にちょっと良いこと風の呟きを漏らして、大魔王は倒れた。


 光の粒となり消えていく大魔王。


 封じられていた勇者の魔法がすべて復活した。


 その輝きを見つめながら、勇者は失われてしまった自らの時間に涙を流した。


 生まれ故郷までの帰り道は、呼んでもいないのに大慌てでやってきたデカい鳥っぽい生き物が、キュイキュイと媚でも売るかのように鳴きながら、懇切丁寧に送迎を行ってくれた。





 ~大魔王を倒すための101の方法 FIN~



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【クリアタイム】

 1時間58分34秒

 (ランキング:210位)


【エンディングNo38】

 「レベルを上げて物理で殴る」ルート攻略。

 条件:

  ・魔法を使用せずに弱体化していない大魔王を撃破

  ・「アル中」デバフ利用可


【次回、攻略のヒント】

 いきなり魔王城を目指すのではなく、祖国の王様に会ってみよう。魔王退治の功績を引き合いに出して、人類戦力の打診を行ったのなら、もしかしたら何か見えてくるものがあるかもしれないぞ。ただし、王様相手にタメ口でイキってはいけないよ? 絶対だよ?


【全ルート中50%攻略、達成】

 ・新しいシナリオが開放されました。

 ・次回以降、所定の条件を満たすと魔王が仲間になります。


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※「攻略のヒント」表示の有無は、コンフィグ画面で変更可能です。尚、表示を「無し」とした場合、モンスターとの戦闘中にランダムで、暇を持て余した「ヒントの妖精さん」が乱入し、予期せぬ影響を与える場合があります。

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