第13話 戦技


「行くぞ」


「来い」


 迎え撃つのはいつも術師の方だ。

 無理難題を受け応えるのが、俺の仕事だから。


 手袋が変形し、握られたのは一本の直剣。

 しかし、材質が不明。

 白銀に輝くそれはプラチナの様にも見えるが、そんな材質の剣が存在する訳が無い。


 魔法的な武器。

 そう考えるのが自然か。


「ッ!?」


 無言で肩を狙い斬撃を見舞われる。


 ――シールド


 極小の結界が、太刀の中心部分を止める。

 結界のサイズ、結界の形状。

 全てはアイシアの思い通りだ。


「肩狙いなんて優しいじゃ無いか」


「殺す気はないので。でも、防がれるとは」


 今の一撃で分かった事がある。

 この男の異様な加速力だ。


 ――私が解析しました。


 はい。

 俺には目にも見えぬ速度に一瞬で到達している。

 どう考えても物理の理屈に合わない。


「まぁ、速く動ける程度でかっこつけられてもな」


「同感です」


 言うと同時、また姿が掻き消える。

 今度は直線的な攻撃ではなく、俺の周りを旋回している。

 しかし、無駄だ。

 俺の動体視力で追えずとも、アイシアの自動防壁はお前の魔力を光速に等しい速度で受信する。

 そして、精霊の処理能力は人間の脳の数万倍。


 ガキン!


 と音が鳴る。


 剣とシールドの激突音。


 ガキン!

 ガキン!

 ガキン!


 連続で音が四方八方からなっている。

 全く何処にいるか分からん。


 ガガガキキキ


 音の感覚がどんどん短くなっていく。

 まだ全速力じゃ無かった訳だ。


 ――統括演算・代行精霊召喚【ワン】

 ――シールド

 ――シールド


 は?

 アイシアが二つの結界魔法が必要と判断した。

 という事は、アイシアの処理能力をこいつの速度が越えた事になる。

 在り得ない。

 音速を越え、光速に近い速度を出さなければそんな事にはならない。


 結界が破られた方がまだ納得できる。


 ――統括演算・代行精霊召喚【ダブル】

 ――シールド

 ――シールド

 ――シールド


 違う。

 これは加速じゃない。


「分身か……」


「ほう」


 ――NO

 ――武器の残像を空間に定着、任意のタイミングで実像化させ起動しています。

 


 あぁ、実像を増やしているだけ。

 しかも武器限定。


 つまり、撃ち込んだ斬撃の残像を留める術式。

 そして、残像を実在化させる術式。


 その同時発動って訳か。


 対抗策はあるか?


 ――272通り


「一番被害の少ない方法で、成功率が高い奴で」


 ――了


「誰に喋っている!」


 ――魔力咆哮マナハウリング


 古の龍が使えたという術式のコピー。

 その雄叫びは多くの魔力を放出し、付近に存在する術を分解する。


「何?」


 ――|蜘蛛鉄拘。


 粘着性の糸を辺りに飛ばす。

 それは空気に触れる事で鉛の様に硬化し、絡め捕られた対象の動きを鈍らせる。


「こんな物!」


 ――砲門用意


 魔法陣が空中に5つ浮遊する。

 魔力弾マジックバレットを射出可能な魔法陣。

 マジックバレットは触れた魔法を貫通し分解する。

 つまり、結界での防御は不可能。

 そして、足を絡め捕られたこの男に回避は不可能。


 よって、次手で必ず俺が勝つ。


 ――チェック


 問う様に、アイシアが言う。

 それは「まだ何かありますか?」という問いなのだろう。


「魔法陣からはいつでもお前を殺せる魔法が放てる。動けば撃ち込める。元冒険者というくらいなんだから、状況判断くらいはできるだろう。まだお前に取れる手立てはあるか?」


「一発、撃って貰ってもいいですか」


 そう言った瞬間、足元の床に穴が開く。

 マジックバレットは結界を貫通する訳で、部屋を頑丈にしていた結界事貫いた。

 良かったな、二階じゃなくて。


「これは、避けられないか。そして、この貫通力確かに詰んでいる」


「俺は合格か?」


「えぇ、最低限の実力はあると認めざるをえません」


 その言葉を聞いて、術を解除する。

 拘束とマジックバレットの魔法陣を。


 その瞬間、奴がまた視界から消えた。

 最初と同じ、直線的な斬撃。


 ――シールド


「ですが最低限です」


 首元からメルト・ラートの声が聞こえて来る。

 結界が首を守っているが、視線から感じる殺気は魔導士の本気と同等。


「もしあの方に何かあれば……」


 ――シールド

 ――シールド

 ――シールド

 ――シールド

 ――シールド


 パリンと、花瓶が割れるような音が響く。

 パリンと、二度目の音が鳴る。

 三度、四度、五度。


「僕は貴方を許さない」


 俺の首から薄っすらと赤い雫が落ちる。


 アイシアが張った五重のシールドが全て破壊された。


「どこぞの名剣、いや魔剣の類かよ」


「半刃で受けた術を、受けた回数だけ半刃で斬り裂く」


 術式を自動的に記録。

 そして、記録された術式を無効化する魔剣って訳だ。


「心配しないでくれ。俺は恩人を危険に晒したりしない」


 ――シールド


 首元に少し大きめのシールドが展開される。

 それに跳ね除けられる様にメルトが飛び退いた。


「斬れなかった?」


 術を記録するってのが悪い。

 そこには自由度とか、ゆとりがない。

 だから、少しでも術式のプログラムを改変されただけで無意味になり下がる。


 術式を構築し、改変するのが俺の仕事だ。

 俺を相手にするには、その剣は分が悪い。


「冒険者証は明日にはできるので取りに来てください」


「いいのか?」


「貴方を信じます。ハク様から、相手を信じないと信じて貰えないとご教授頂きました。よって、一度だけ貴方を私は信じます。ですが、もしも破れば貴方の言葉は今後一切信用しない」


「分かった、肝に銘じておく」


 それじゃあ俺も、こいつを信用しないとな。


「お願いします」


 そう言って、メルトは俺に頭を下げた。


「というか、だったら最初から信じてくれよ」


「誰彼理由無く信じる事を、信用とは言わないと思いますよ」


 ――同感ですね。マスターはハクに一度騙されていますし。


「はいはい。どうせ俺は信用ないですよ!」


 ――「「なんですか?」」


 同時に同じ事言うなっての!

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B級魔術師、2000年前に召喚される ~未来の魔法は地味だから弱いと追放されたので冒険者やってみる~ 水色の山葵/ズイ @mizuironowasabi

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