第12話 A+B


 ダンジョンは最奥の主が絶命する事で、自然崩壊を始める。

 その際、中に居た探索者は自動的に空間外へ弾き出される。


「実感わかないわ。魔王種の魔物を、単独で討伐するなんてSランクでも簡単じゃ無いわよ」


「別に簡単に勝ってないけどな」


 結構ギリギリだ。

 戦闘力という点で言えば、俺は殆ど全ての手札を見せた。

 最上級の一撃。

 情報戦など度外視の初手ブッパ。

 魔導士に観戦されたら、小一時間文句を言われる戦闘だった事だろう。


 人工知能の反応でギリギリ勝てただけ。

 アイシアが居なければ、最初の根の一撃で俺は死んでいる。


「エルフですら理解不能な難解な術理を使っていて、何を言ってるのかしらね」


 そりゃ、未来の技術だからな。

 それに、ハクは俺の魔力が多いと言ったがそれは違う。

 デバイスに不随する魔導炉が莫大な魔力を持っているだけだ。


 しかも、それは俺の魔力を効率的に術式に注入する為に使用する事しかできない為、結局俺なんかよりもハクの方が魔導士には相応しいって事になる。


 ――ですね。


「それで、これから街に戻るのか?」


「えぇ、冒険者になるならギルドに登録しないと」


 それが俺の目的。

 流石に無職じゃ生きていけない。

 この世界の金を稼ぎたい。

 しかし、元々この世界の住人では無い俺には圧倒的に信用が無い。


 よって、選択肢は限られる。


 行きと同様、飛行魔法を使って街へ戻る。

 転移でも戻れるが、マーキングを使えるのは俺だけだからな。


「ハク様、お帰りなさいませ」


 ハクに案内された建物、冒険者ギルドに入ると職員服の男がそう声をかけて来た。

 ハクに。


「マスターは居る?」


「えぇ」


「連れて来るか、案内して」


 高圧的にハクはそう言う。

 え、もしかしてハクって結構偉い人?


「マスターへの面会件を持つのはSランク冒険者かチームのみです」


 しかし、ハクの威圧へ面と向かって職員の男は拒絶する。


「貴方は確かにチームではSランクでした。しかし、現在の単独の貴方のランクはA。面会権はございません」


「ふざけてるの? ふざけてるのよね? 私を止める力が貴方如きにあると本気で思うの?」


 ふむ。


「ちょっと落ち着こ!」


 俺はハクの後頭部をチョップした。


「何すんのよ!?」


「いやいや、店員さんに迷惑かけちゃだめでしょ」


「私は迷惑なんて……」


 仕事なんて、殆どの人はやりたくてやってるんじゃない。

 この職員さんだって、規則で仕方なく止めているのだ。

 それを、高圧的に追い詰めるなんて良くないだろう。


 モテない男の筆頭だ。

 ハクさん男じゃないけど。


「職員さん、自分冒険者になりたいんですけど、どうしたらいいですかね?」


「冒険者……ハク様のお仲間という事でしょうか?」


「まぁ、そうなりますかね」


「……なるほど。畏まりました、それでは貴方にはテストをお受けいただきます」


 テストか。

 冒険者っていうのは職業よりも資格に近いのだろうか。

 けど、履歴書出せって言われるより大分マシだ。

 この世界の履歴書とか絶対無理だし、書ける事が無い。


「待ちなさい、テストですって!?」


「ちょっとハクさん? 職員さんに迷惑かけちゃ駄目でしょって」


「だから!」


 ハクが何か言いそうなのを遮って、職員さんがこちらへと道を指す。


「ハクは来ないでいいから」


「何よそれ……」


 また喧嘩しそうだし。

 渋々といった様子でだが、俺の言葉に彼女は従ってくれた。


「こちらへ」


「どうも」


 俺はそれに従って奥の部屋へ歩いて行った。


「あの、ご関係をお伺いしてよろしいでしょうか?」


 職員の男。

 魔法陣の描かれた手袋つけた赤みのある黒髪の彼。

 青年という歳であり、好青年という印象を持った。


「今日知り合いました。冒険者の事何も知らなかったので、色々教えて欲しいとお願いしたんです」


「なるほど、けれど私はハク様には冒険者を辞めて欲しいのです」


「ハクはAランクなんでしょ? Aって事は、結構上の方の実力なんじゃないんですか? そのプロフェッショナルにどうして?」


「あの方はギルドに多大な貢献をして頂きました。お仲間と共に、我がギルドに絶大な恩恵を齎して頂きました。そんな方をこれ以上、友人の、家族の死を想起させる場所に居させたくない。他に何かご質問は?」


 振り返り、覚悟の籠った瞳を向け、俺に彼はそう言った。

 揺らめく炎のように決心の籠った目。

 理解した。

 仲間が死に、傷心しているハクに引退を促したかった訳だ。


「無いな。テストの説明をしてくれ」


「僕に、貴方があの方をこれ以上絶望させないと証明して下さい」


 そう言って、彼は右手を差し出す。

 握手を求めている様にも見えるが、距離を考えるとそういう訳でも無いのだろう。


「ここは訓練用の特殊な部屋です。壁には結界があるので、ある程度の攻撃は無効化してくれます」


「テストって言う割には私的な内容だな」


「元Bランク冒険者メルト・ラート、二つ名を剣狼、私怨を持って貴方を試させて頂く」


 手袋の魔法陣が輝き、手に剣が出現する。

 収納用の魔道具……違うな、剣を手袋の形に変身させていたのか。


「茂上ケイ、魔術師だ」


 アイシアを起動し、俺は名乗る。


「マスターを含め、私の意見はギルド職員の総意です。それを覆すと言うのであれば、それなりの力を証明して頂きたい」


「だったら安心してくれ。どうせ、ハクに強さで頼る事は無いから」


 そう言うと、彼は目を細めた。

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