第5話 俺たち、恋愛縁なし組
世の中、恋愛に縁がある奴とない奴の双方で別れると思うんだ。
ほら、縁のないやつって、恋愛フラグが仮に立っても、気づかなかったり、安易に折れたり、過ぎ去ることが多い。
一方、縁のあるやつってのは、いつだってタイミングが合う。思いも出会いもすべて完璧に。
もちろん、俺はスピチュアルなんてものは元旦の日にしか、信用しない。
けど、やっぱ縁の話になれば、そういう神話的なものも否定はできないように感じるものなんだよな―――
「うぉーす! タカ、はよさん!」
早朝。まだまだ眠気の残る体。そのコンディションに合わしてくれているかのように、街は静けさを保ってくれていたが、どうもその静寂は打ち破っられたようだ。
「おぉい! 聞いてんのか! おはようさん!!」
「んん、あぁおはよう。すまんな、お前が小さいせいで誰が挨拶してきたのかわからんかった。……いや、もしかして蟻が俺に挨拶をした?」
「私がしたんだよ!! 思いっきり口が動いてるだろが!」
「蟻の腹話術かもしれないし」
「私は蟻の傀儡かい!? 何気ないキメラアント編かい!?」
「はは、メルヘン、メルヘン」
「ちーっともメルヘンじゃねぇよ!! 思いっきり逆だよ、本編読んだのかよ!!」
中々のボリュームで応答する彼女は、小波コナミだ。中学2年の時に同じクラスになって以来、現状の高校まで縁が続いている。
特徴としては、まぁとにかく明るいことだろう。とにかく明るいコナミさんとは彼女のことだ。
で、ほかの特徴はといえば、小さい。とにかく小さいことだ。背も顔も胸も小さい。あと、おそらく気も小さい。
本人に胸と気が小さいことを話すと、逆上なさるが背に関しては何も言わない。むしろ。
「いやいや、背が小さいのはネックのように感じるだろうけど、実はとそんなことないんだよなぁ」
どうして?
「そりゃあ、貴重なロリ枠に入れるからな! ほら、私顔がいいし! にゃはは、合法ロリだぞ、合法ロリ!!」
言ってて悲しくならないのかと思ったが、まぁ本人が幸せそうならそれでいいだろう。
あと、映画は子供料金で行けるとか言ってたし、まぁまぁほっておこう。
「あ、さっちんとさぶちんじゃん!」
徐々に目も覚め、そろそろ学校に着くかと思う頃合い、コナミは前方に指を指した。
さっちんとさぶちんは名前が似ているが、特に兄弟というわけでもなく、俺達と親しい男女だ。さっちんが女子で、さぶちんが男。
「よぉし、挨拶しにいこーぜ!!」
あぁ、行くか……。とまで口にしたが、前の二人にどこか独特な空気を感じたため、俺はコナミを抑えた。
「うぉおい! どうしたんだよ!」
「いや、よく見ろ」
俺は二人に指を差す。
「あぁん、どうしたんだよ……。って!」
「あぁ、気がついたか」
さっちん、さぶちん。普段は何気ない友だ。いい子、いいヤツ。ただ、それだけ。
俺達にとって良き友人なのだ。
しかし、今日の二人は違う。そう、違うんだ。
「だってよぉ、タカぁっ……腕が!!」
「腕じゃなくて、手な。そこまでセリフ合わせんでいいから……。しっかし、まさか手をつないで登校してやがるとは……」
「私達の嫌いなバカップルってやつだね」
「だな……」
うむぅ、二人にそんな脈あるようには見えなかったんだがな。
そうか、いつの間にかくっついたのかぁ。縁があるなぁ。
「チェッ、デキ婚してドロップアウトすりゃあいいのによぉ」
「コナミちゃん……、いくら何でも友達にそんなこといっちゃだめよ……?」
「冗談だよ」
「お前が言うと、冗談には聞こえねぇ……」
「しっかしさ、最近私達の周りでカップルなるやつ多いよねぇ。ついに、日本も少子化対策云々で国中に恋したくなるフェロモンでも撒いたか、ニャハハ!」
「だったら、ぜひとも俺たちにも浴びせ欲しいものだな。ま、浴びようと俺たちには縁がないだろうが」
「んだな! 私達、変わりもんだしな!!」
二人で高らかに笑い合う。それが程々にデカかったのだろう、サチサブカップルが俺たちに気づいたみたいだ。
「あっ、おはよ~、コナちゃん、タカ君」
いつものような朗らかな笑顔で、さっちんが歩みを寄せてくる。
「うっす」
「いよぉっす、さっちん!」
俺もコナミもさっきまでカップル恨み節みたいなところがあったが、さっちんの朗らかパワーで和んでいく。
そうそう、カップルを恨むなんていけないことだぜ?
「あのぉ、実はね。二人に伝えたいことがあって……」
もじもじしだすさっちん。ちらりと、後ろのさぶちんに目を据える。
しかし、その伝えたいことはすでに既知なので、コナミが口を開く。
「いやいや、言わなくても伝わるぜさっちん! 実は私、エスパーだったからな! 昨日とか懺悔したまでだしな!」
「それシスターだろ……」
「あぁ、もううるさいな! よぉし、さっちん当てるぜ! あれだろ、サブちんと付き合い始めたんだろ!!」
「あっ、いや。付き合ってるのは結構、前々からだよ~。あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてねぇよ!? なんでさ、さっちんなんでそれ言ってくれねぇんだよ! 私達、飯食う時間も宿題する時間も外出するときもトイレ行くときも近所の犬が吠えたとき、いかなる時もホウレンソウする仲じゃん!!」
「だから言わなかったのでは?」
「私が過干渉だというのかぁ!!」
なぜか怒りの矛先が俺に向いてらっしゃる。いやいや、そんな威嚇されましても……。
ため息混じり、俺はコナミをほっておいて、さっちんに声かける。
「それでさっちん、伝えたいことって?」
「あ、それはね。実は私、サブ君と今日で付き合って一周年なるの」
「さっちんのばかやろぉおおー!!」
「うるせぇな……」
「何を! 手塩にかけて大事に大事に育てた娘が実は霞だったっていうオチみてぇなもんだぞぉ!! この空虚感、お前にはわからないだろうなぁ! うわーーん!!」
「そもそもお前の娘ですらないだろが……」
「実は血のつながってない親子関係なんだよぉ!」
「だとしたら、さっちんが母親だ、母親。お前は手間かかる娘だ。で、捨てられて、川に流されて、やむを得なく、仕方なく、脅迫されて、嫌々小並家に引き取られたんだよ」
「ワンピのキャラより重てぇ過去!! たらい回しにも程があるだろが!! てか、最後脅迫されて私、引き取られたのかよ!! 悲惨すぎだろ、私!」
コナミはわーんと泣きながら、さっちんに抱きつく。
コナミいわく、さっちんとの抱擁は原始に戻れるらしい。いいな、羨ましい。俺も抱擁したい。
「よぉしよぉし、コナちゃんいい子、いい子」
「ぐぇへへへ」
「なんかおじさん憑いてません? そいつに」
優しく包むように、さっちんはコナミを撫でる。
「うふふ、私、コナちゃんの恋が実ること、ちゃんと祈ってるからねぇ」
「ぐぇへへへ、っ……」
おじさんスタイルから唐突に、無言でさっちんの元から数歩下がり、コナミはしばらくだんまりし始めた。
「あ、いけなぁい。私ったら、ついつい。ごめんね、コナちゃん」
「っ……っおおい、さ、さ、さ、さっちん。流石にそれはだ、だめだろ……」
コナミはちらりと俺の方を伺う。珍しく、動揺なんかして顔を赤くしてらっしゃる。
俺はいたずら心満載の笑みで、彼女に対応することにした。
「ほおぉ、恋愛に興味が無いと自負する、あのコナミ様が恋をしているとはねぇ」
「……っううぅ!」
言葉にすらもなっていない。ほぉ、あのコナミがここまで動揺するとは珍しいものだ。
ただ、人の恋を笑うなど言語道断。それはちゃんとわかってるさ。にしても、少し胸が痛むものだ。
「ハハ。ま、案外付き合いの長い俺達だからな。任せてくれ、サポートが必要なら全力でするさ」
「あ、う、うん……。えっと、ありがとな!」
「あぁ、気にすんな。お前なら確実に仕留めれるさ」
「人をハンターみたいに言うなよな!」
いつものやり取りに戻る。痛い。あと、さっちんの視線もなぜか痛い……。
「もー、仕方ないなぁ」
さっちんはため息を付き始める。なに、なに。何が仕方ないの? 俺の生き様?
気になっていると、さっちんがさぶちんを集合にかけた。
なんだ、惚気話でもするつもりか。
普段は物言わぬ口、聞き手のさぶちん。今日もいつものように寡黙さを漂わせている。
そういや、告白したのはどっちなんだろうな。なんかさぶちんは口を開くイメージないし。まぁさっちん側か。
「タカ、俺さ……」
さぶちんが珍しく口を開く。おぉ、さぶちんが口開くときはなにか重要なことがあるときだ。
さて、何を言われるんだろうか。少しドキドキしていると、さぶちんは声に出した。
「お前の恋が実ること、応援してるから」
「……」
どうしてか、すげぇこの場から逃げたくなった。
俺は恐る恐る、コナミに目を向ける。当然、彼女は俺に仕返すように、満面の笑みを浮かべらっしゃる。
「ほぉほぉ、恋愛に興味が無いと自負する、あのタカが恋をしているとはねぇ!」
「ぬぉおおお!」
「似た者同士ねぇ」
「……だな」
うるさい! カップルどもが!
「ま、まぁまぁ、私もタカとは顔なじみの仲だ! お前の恋愛成就、手伝ってやっからさ!」
「っうう~~~」
思わず、唸ってしまう。
よぉし、わかった。もういい、もういいぜ。完全に吹っ切れたぜ!
「オッケー、オッケーだ。よし、コナミ!」
俺はコナミの小さな肩を持つ。
コナミはまだ動揺が残っているのだろう。少し顔を赤くして、目をそらしている様子だ。
「な、なんだよ」
「放課後、俺の恋愛成就を手伝え!」
「え、えっ。あ、ん、まぁいいけど」
「よしっ。いいか、絶対に成就するまで俺に付き合うと誓ってくれ」
「は、はぁ? ま、まぁ最後までちゃんとサポートはしてやっけどさ……」
「あと、そ、そのさ。もし、俺が失敗しても、今の関係のままでいてほしい」
「はぁ? どういう……。っ!!」
コナミはポンッ! とゆで卵が急激に出来上がったみたいに、顔を赤くした。
くっ、普段は鈍いくせに察するなよ! 俺はその場で立ってもいられなくなり。
「そ、そういうわけだから! 頼むぜ、コナミ!」
先に学校へ猛ダッシュ。
「あっ、ま、待ってよ、タカぁ!!」
後ろからは小さな歩幅で、確かにこっちにコナミが近づいてくるのがわかった。
しかし、今はもうコナミの顔なぞ直視できない。
俺は乙女みたいに学校まで走っていくのであった。
「私、コナちゃんたちがバカップルになる、に賭けるわ~」
「……俺も」
「あらあら、それだと賭けの意味がないわね」
「だな。ま、あれは究極のバカップルになるだろな」
「えぇ、間違いなく、ね」
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