見るな

ツヨシ

第1話

転勤し、新しい職場に通う。

新しい住居から。

今日が初日だ。

アパートから会社まではそう遠くはない。

歩いて出社する。

そして会社まですぐそこと言うところの交差点で、見た。

いたのだ。

交差点の真ん中に、半透明で全身血まみれの女の子が。

気づいてすぐに目をそらす。

見てはいけない。

あんなものは見るとろくなことがない。

幸い相手はそこから動かないようだ。

視線をそらしておけば問題はない。


それから一か月ほど経ったある日のこと。

出社しようと例の交差点にさしかかると、セーラー服を着た女子高生が信号待ちをしていた。

それだけなら、なにもない。

見慣れた光景だ。

しかしいつもと違っていたのは、その女子高生の視線が、明らかにあの血まみれの女の子の方を向いていたことだ。

――いかん!

あわてて女子高生に駆け寄った。

しかし間に合わなかった。

女子高生は急に車道に飛び出し、運悪く通りかかったトラックにはねられてしまったのだ。

――うわああ……。

あたりは騒然となった。

その時、交差点の一角にあるコンビニから店員が飛び出してきて、私の横に立ち、小さくつぶやいた。

「またか。変な事故が多いんだよな、ここ」

それはそうだろう。

あんなものが交差点の真ん中にいるのだから。

変な事故が多いところは日本中にある。

転勤族の私の経験上、そこには常になにかがいるのだ。

そしてそのなにかに気づいたとしても、決してそれを見てはいけない。

死にたくなければ。


       終

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

見るな ツヨシ @kunkunkonkon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ