第152話 花神楽
父さんへの邪念を弔いたい、一心で僕は舞い、青い宙を切り、その銀の刃を抱きながら、汚れちまった悲しみも含む、情念を封印している。
かの中原中也のあまりにも名高い詩編じゃないけれど、僕は文豪の言の葉を借用しながら、己の妄執を乗り越えようと、果敢に闘っているのだ。
穢土の浮世で僕は僕に食らいつく、瘴気を押し殺すしかないのだ。
赤襷が春の汗にチラつき、花便りの幻影を僕に暗示している。
雪月花、この幻想的な春の訪れ、僕は桜花の下、花の頃に舞の文をしたためる。
走馬燈消えてしばらく廻りけり、と村上鬼城の名句のように、いざ、花の神話の源流へ行け。
春花秋月、白銀の桜月と恋せよ、咽べ、死を前に、詩情を口ずさめ。
桜時、僕は己自身と果敢に闘う。
「君は君が思うほど、君に流れる血がどれだけ、この国にとって必要不可欠か、理解していない」
夢の中であっても、桜木の下、父さんの瞳孔は黒く光っていた。
「宮家の男児は愈々もって減少し、存亡の危機に瀕している。私の父は私に男児が恵まれなかった事実を諫め、私を叱りつけなさった。君の存在はこの上なく尊いのだよ」
夢の中でもその事実の重みは大きく、僕には耐えられなかった。
僕と父さんがよく似ているのは周知の事実だったし、これもまた逃れられない過酷な運命。
銀鏡に残した君に会いたい。
螢ちゃん、君は今頃、何をしているのだろうね?
僕は都心の一等地で何不自由なく暮らせているように思える。
誰もが羨むような生活を送っているように見える。
君に会いたいんだ。
故郷の森に広がる神話を語り継ぎ、翠風を浴びたいんだ。
僕は君に会って謝りたいよ、こんな砂上の楼閣で下界を見下ろしているのだから、と。
月神楽 月影よ、この出生の秘密も僕の悲愁も砕いておくれーー。 詩歩子 @hotarubukuro
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